東洋文庫 明治大正史 世相編 (1931)

朝日新聞社によって企画・刊行された本書は当時朝日新聞論説委員だった柳田國男の書き下ろしであり、独創的で味わい深い作品になっている。冒頭ではこのような趣旨を述べている。<世相とは時代の変わり目で一変するが、目に見える色、耳に聞こえる音で気づ…

東洋文庫 大河内文書 明治日中文化人の交遊 (1877〜1881)

元高崎藩主で華族の大河内輝声(てるね)という人が東京に来ている中国人との交遊を通じて筆談の文書を残している。これはその日本語訳である。一部を抜粋して紹介する。漢字とかなの表記は改変した。 明治10年12月23日浅草凌雲閣にて (略) 輝声 私は姓は…

東洋文庫 日本教育史 1 (1890)

本書は神代から明治20年までの日本の教育史を記したもので当時の師範学校教科用書である。文部省総務局図書課の佐藤誠実氏により編纂された。なんとなく手に取る気がしない題名であるが読んでみると意外と面白い。一部を紹介する。 第一篇総説 (略) 応神天…

バロネス・オルツィ 紅はこべ (1905)

フランス革命後の混乱期に登場した秘密結社紅はこべ団を描く活劇ストーリーである。1792年のパリでは革命政府が貴族の根絶に乗り出し外国勢力と通じたという理由で貴族らを次々とギロチンで処刑していた。恐れおののいた貴族らは逃亡を図るがパリの4つの城門…

東洋文庫 蜀碧・揚州十日記他 (1742)

「蜀碧」は明末において農民反乱軍の首領である張献忠が四川に侵入して重慶、成都を陥落させ大量虐殺を行った史実についての記録である。官軍と戦って転戦しながら重慶を陥すところまでが滅法面白い。そのくだりを紹介する。 ◯6月20日、賊は重慶を陥れ、瑞王…

東洋文庫 生命のおしえ 民衆宗教の経典・黒住教 (1828)

本書は幕末三大宗教の一つ黒住教の教書で歌集と文集よりなる。教祖の黒住宗忠は備前国の神職の生まれで、「自ら神のような人間になり広く人々を救う」という大望を抱き修行を開始し「日々家内心得の事」をまとめ、信者の規範とした。その全文を紹介する。 日…

ロバート・A・ハインライン 夏への扉 (1956)

SFの名作中の名作と言われている夏への扉を読む。 あらすじ 主人公の技術者ダンは共同経営者のマイルズに婚約者と会社を奪われ、途方に暮れながら酒場で飼い猫と呑んだくれているとある考えがひらめいた。自分と猫を冷凍睡眠してもらい30年後の世界で目覚め…

東洋文庫 懲毖録 ちょうひろく (1600年頃)

本書は李氏朝鮮の高官であった柳成龍が記した文禄・慶長の役の詳しい記録である。日本からの使者との折衝および朝鮮側の鈍い反応、日本の驚くほど迅速な侵攻、緒戦で打ち破られると恥も外聞もなく逃げ出してしまう朝鮮正規軍の振る舞いについて述べられてい…

満洲難民 (2015)

著者の井上卓弥氏は毎日新聞社の記者で1965年生まれである。祖父一家が旧満洲からの引揚げ者である。これは複数の引揚げ者の手記を基にして記した本になる。要点のみを抽出する。 1945年8月9日ソ連参戦す。8月11日夜、祖母井上喜代は四人の子供を連れて新京…

東洋文庫 薩摩反乱記 (1879)

本書はイギリス公使館書記官として日本に滞在していたマウンジーによる"The Satsuma Rebellion, London(1879)" を当時の日本の翻訳官が訳出したものを現代仮名遣いに書き換えたものである。内容は幕末の政治状況から説き始め西南戦争の全容を記したものにな…

汚辱の世界史 ボルヘス著 (1935)

悪党列伝とも言われるこの著には南北戦争前のアメリカや中国の海賊、江戸幕府の政治家についての実話が出てくるが最も興味を引いたのはホラサーン地方のメルブ(現トルクメニスタン)を舞台としたお話である。 ホラサーンとはペルシャの東方の辺境のようなと…

東洋文庫 鳩翁道話 (1835)

18世紀初頭に興った石田梅岩の心学を弟子たちが全国の講舎などで庶民に口頭伝道したものが所謂道話というものである。その中の白眉と言えるのが本書の鳩翁道話と云われている。その実物をいくつか紹介する。 さざえの自慢 (略) あのさざえが何ぞというと…

東洋文庫 真臘風土記 アンコール期のカンボジア (1300年頃)

著者の周達観は元の使者として1296年に真臘(カンボジア)を訪れ翌年帰国している。これはその時の記録である。真臘と占城は1285年から元 に入貢している。 本文では先ず真臘の場所について船で行く行程が記され、聖天子(成宗)の命により今回の業務が行わ…

東洋文庫 看羊録 (1658)

著者の姜沆は慶長の役で捕虜になり1557年〜1560年の間日本に幽閉されていたが、無事に帰国しこの書を著す。東洋文庫では日東壮遊歌 (1764)、海游録(1719)という江戸時代の日本の事が書かれたものがあるがこれは安土桃山時代と重なる貴重な報告書である。…

東洋文庫 幕末政治家 (1898)

著者の福地源一郎は長崎出身の旗本で維新後は新聞の創刊、翻訳、戯作、小説執筆と多彩に活動し政治家としても活躍した。本書は著作の中の一つで歴史を扱ったものである。老中阿部伊勢守、水戸老公、島津斉彬卿、堀田備中守、井伊直弼、水戸斉昭、安藤対馬守…

東洋文庫 新猿楽記 (2)

著者の雅楽についての博識ぶりを示す章がある。 [28] 九郎ノ小童ハ、雅楽寮ノ人ノ養子タリ。高麗、大唐、新羅、大和ノ舞楽、尽ク習ヒ畢ンヌ。生年十五ニシテ、既ニ此ノ道ニ達セリ。笙・篳篥・簫・笛・太鼓・鞨鼓・壱・腰鼓・フリ鼓・摺鼓・鉦鼓・銅鈸子等…

東洋文庫 新猿楽記 藤原明衡(1052)

平安時代の文化が爛熟して崩壊する前夜の庶民の活動の有り様を衛門尉が書き記したという形式で綴られる読み物である。著者は藤原明衡とされている。冒頭の部分の現代語訳を示す。 わたくしは、この二十何年以来、東の京、西の京にわたってずっと見てきている…

東洋文庫 通俗伊勢物語 (1678)

本書は紀暫計による『伊勢物語ひら言葉(1678)』及び也来による『昔男時世妝(1731)』の二つの本を収録したものである。源氏物語が作り物なのに対し伊勢物語は在原業平の実録であることから人気が高く江戸時代においてもこの様な本がでているのである。 ど…

東洋文庫 十二支考 (2) 南方熊楠 (1923)

本書は十二支に出てくる動物についての伝説や民俗について古今東西の文献から著者である南方熊楠が縦横無尽に語り尽くそうという作品である。 東洋文庫の巻(2)は馬についての伝説から始まる。この話はインドの説話だがパーリ語の本生譚の漢訳である本生経…

東洋文庫 南洋探検実記 (1892)

井上外務卿は日本人殺戮事件の調査の為外務省の職員をマーシャル群島に派遣することにした。その時の辞令である。 御用掛 後藤猛太郎 今般濠斯太剌利亜地方へ派遣申付候事 明治一七年七月二十八日 かくして後藤猛太郎及び本書の著者である鈴木経勲ら一行は、…

渚にて その3

(P.237〜P.320) スコーピオン号は北上するとサンフランシスコの惨状を確認し、無線の謎を解くべくシアトルへ向かう。一名が上陸しサンタマリア島の無線設備を点検すると謎の無線は風とコカコーラの瓶によるいたずらであると判明した。事件としてはシアトル…

渚にて その2

(P.123〜P.237) 科学者オスボーンはピーターを格式の高いクラブに連れて行き退役軍人の大叔父に酒を奢ってもらう。閣下の目下の課題は蔵に眠っている大量の高級ワインをどうやって飲み干すかである。 モイラは艦長に狙いをつける。電話で呼び出しホテルで…

渚にて ネビル・シュート(1957)

SFの名作「渚にて」を読む。要旨を書き留める。T.S.エリオットの意味深なエピグラフもあり本格的な作りである。 (P.1〜P.123) オーストラリアの海軍少佐ピーター・ホームズはある朝眼を覚まし、幸福感に浸りながら今日の予定に想いを巡らしていた。7ヶ月仕…

東洋文庫 松本良順自伝・長与専斎自伝 (1902)

松本良順は江戸時代末期から明治にかけて活躍した蘭方医である。当時は蘭学を学ぶ事は至難であり、やはり多紀楽真院の妨害を受けている。本文には陽だまりの樹を彷彿とさせる様な史実が並んでいる。部分を抜粋する。 (略) 幕府創業の制は、習慣上より、医…

神社に隠された大和朝廷統一の秘密 (2019)

本書は明治学院大学を定年退職した歴史学者・文学博士の武光誠氏による書き下ろし作品である。 概要 紀元220年頃の大和朝廷誕生以前の日本には多くの豪族が並び立っていた。これを外国から見ると小国の君主ということになる。 紀元前10世紀の弥生時代に日…

東洋文庫 大本神諭 火の巻 (1920)

本書は大本教開祖出口ナオの御筆先を出口王仁三郎が編集したものである。御筆先とはいわゆる自動筆記によりひらがなで書かれたもので艮の金神が憑依したとされている。内容は終末論的な内容を含み社会批判、政治批判も見られたため教団は政府により弾圧され…

大戦略論 ジョン・ルイス・ギャディス(2017)

本書はアメリカ海軍大学校とイェール大学で開講されたプログラムの精髄を一冊の本にまとめたものであるという。その内容は精選された歴史上の戦争を俎上にあげて「ハリネズミとキツネ理論」に基づいて指導者の遂行能力を評価するというものである。例えばペ…

東洋文庫 中国古代の祭礼と歌謡 M.グラネー (1919)

フランス支那学の大家 M.グラネー による大著かつ学位請求論文が本書である。歌謡というのは詩経に収録されている恋愛歌の事で、祭礼とは四つの地方の祭礼について幾つかの文献を元に著述したものである。新進気鋭の学者だけあって緒論では旧来の欧米の研究…

女たちの王国 曹惠虹 (2017)

本書はふつうのルポルタージュとは違いある女性が作家デビューのために書き下ろした作品である。フェミニストを自称する著者はシンガポールで企業弁護士として激務の日々を送り、豪邸にポルシェに三つ星レストランと絵に描いたようなセレブ生活を楽しんでい…

東洋文庫 稿本 自然真営道 (1755)

江戸時代の医師、思想家である安藤昌益が記した書で思想のような医学のような内容がすっきり頭に入ってこない事が書かれている。刊本は三巻であるが出版されなかった稿本は百一巻もあり、再発見分九十二巻は東京大空襲で焼失した。現存しているのは十五巻で…