井伏鱒二 集金旅行 (1937)

荻窪の望岳荘の住人の主人公と同じく住人である美人のコマツさんが踏み倒された家賃の回収の為亡くなった家主の代わりに西日本を旅行する。どうしてこういうシュールな状況になったのか尤もらしい成り行きが書かれてはいる。この辺りどんな辻褄でも合わせる…

グスタフ ファーバー著 ノルマン民族の秘密 (1976)

9世紀に遅ればせながら民族移動を開始したノルマン人(ノルウェー人、スウェーデン人、デンマーク人)は各地で略奪を行い、ロシア、フランス、イギリス、シチリアに国家を建設し、アイスランド、グリーンランド、アメリカを発見し植民した。 概略はこうであ…

NHKブックス 大野盛雄 イラン日記 (1985)

著者である東大教授(東洋文化研究所)の大野盛雄は1963年テヘランに入りテヘラン大学文学部社会調査研究所で農村の研究に着手する。そしてたまたまイラン革命に出くわしたのである。彼はペルシャ語を習得し現地の情報を集め古書店で農村文学を集め農村に住…

東洋文庫 E.S モース 日本その日その日 1 (1917)

東京帝国大学初代動物学教授モースが滞在中に書き記した失われゆく日本の記録である。第1巻には横浜、東京、日光、江ノ島の様子が豊富なスケッチと文章で描かれている。ジャーナリストのJ.R.ブラックとは一味違う科学者ならではの著述になっている。シーボ…

東洋文庫 リンドレー著 太平天国 1 李秀成の幕下にありて (1866)

1864年日本が下関戦争で苦しんでいる頃中国では太平天国の乱が終焉を迎えていた。李秀成とは太平天国の新指導部の一人で著者リンドレーは英国海軍将校で太平天国に入り込み協力しながら内部事情を詳しく観察し危険が迫ると中国を脱出した。その後本書が出版…

東洋文庫 J・R・ブラック ヤング・ジャパン 2

この本の著者J・R・ブラックは1861年に横浜で創刊されたジャパン・ヘラルドの主筆を務めた人物である。本書ヤング・ジャパン第2巻では1864年の下関戦争から始まり1868年(明治元年)までの出来事が記されている。 下関戦争の布陣から顛末まで、居留民の襲撃事…

東洋文庫 ヴィンセント・シーン 東方への私の旅 〜リフの山々から中国へ (1935)

シカゴ大学を出てニューヨークのデイリー・ニューズ社の記者となったシーンはゴシップ記事を書いていたが1年働いた後貯めたお金でパリへ旅立つ。パリで数日ぶらぶらし北フランスの下宿をみつけるとそこに三ヶ月滞在し小説を書きながら語学を習得する。イタ…

大久根茂 著 秩父の峠 (1988)

目次を紹介する。標題にも興趣がある。 秩父と峠 十文字峠 海抜2000mの原生林 雁坂峠 日本三大峠のひとつ 仙元峠 ブナ林が美しい 妻坂峠 伝説を秘めた峠 正丸峠 江戸への最短ルート 顔振峠 義経が絶賛した眺望 大野峠 信仰の道からレジャーの道へ 粥新田峠 …

東洋文庫 室町殿物語1 楢村長教著 (1706)

説話集のような体裁だが読んでみると大内義隆が家臣の陶隆房によって殺されて周防(山口)を乗っ取られた大寧寺の変(たいねいじのへん)やら、第13代将軍足利義輝が松永久秀と三好三人衆の軍勢に夜襲され一族諸共殺される永禄の変を扱った記述など政治情勢…

V.V.レヴェジェフ/Yu.B.シムチェンコ カムチャトカにトナカイを追う 〜チュクチャ族の自然と伝説 (1983)

著者らはカムチャトカの東岸アチャイヴァヤム村を ヴェズジェホートに乗り出発する。この村の住民はチュクチャ人で三百人ほどいる。著者らの目的は広大な地域に住むチュクチャのテントを回り彼らの出自を明らかにする事にある。 万能走行車ヴェズジェホート …

東洋文庫 A.ジーボルト 著 ジーボルト最後の日本旅行 (1902)

ジーボルト父子は1859年オランダを立ち最後の日本旅行を試みる。日本を永久追放になっていたジーボルトだが陸軍将校として最後の任務を果たす事になったのである。日本が開国し状況が変化したのだ。ジーボルト63才、息子A.ジーボルト13才の時である。 …

東洋文庫 トゥリシェン著 異域録 (1723)

満人の官僚トゥリシェンが康熙帝の命を受けトゥルグートのアユキ汗の元へ三十人ばかりの使節団として派遣される。その旅行記である。トゥルグートはモンゴル族のオイラートが集住するカスピ海北岸の小国である。当時清朝はジュンガルのツェワン・ラブタンと…

東洋文庫 宋応星著 天工開物 (1637)

明の時代に刊行された産業技術書で日本では早くから訳本(和刻本)が出ている。一方中国では消滅していて中華民国の時代になって留学生が日本から持ち帰ったという経緯がある。稲の項を見ると籾から少し芽が出た所で苗代に蒔き、30日経ってから抜き田植えを…

東洋文庫 バタヴィア城日誌3 (2)

1643年のブレスケンス号事件についての一次史料になっている。金銀島探索の為日本の東方海上を航海していたオランダのブレスケンス号は暴風雨に遭い漂流後補給のため岩手県の山田浦に上陸し捕らえられる。その際の日本側とのやり取りが詳細に記述されている…

東洋文庫 バタヴィア城日誌3

鄭成功が台湾のゼーランジャ城を攻略しオランダ人を追い出す経緯が序説の所に書かれている。塩野七生のローマ亡き後の地中海世界を彷彿とさせる戦いだ。ゼーランジャ城は今は台南市の観光スポットで安平古堡と呼ばれている。残っている遺構は僅かなものだ。…

エリノア・ラティモア著 トルキスタンの再会 (1927)

1895年生まれのエリノア・ラティモアは裕福な家庭に育ちノースウェスタン大学を卒業した後教鞭をとる。第一次大戦のころYWCAに参加し乗馬、テント、キャンプ用具の運搬法を身に付け旅行家としてのキャリアを開始する。仕事で北京に滞在中、夫となるオーウェ…

フランソワ・ミッセン 地獄からの証言 ソ連のアフガン支配の内幕 (1980)

アフガニスタンが近代化を目指していた頃(1953年)当時の首相ダウドは米国のニクソン副首相をカブールに招いて 天然ガス開発のための資金援助を得ようとする。この時ニクソンはアフガニスタンがCENTO(中央条約機構)に加盟する事を交換条件とした。こ…

ケンペル 江戸参府旅行日記 東洋文庫

長いので二回目の江戸から長崎までの記録を追ってみた。日誌形式で通過した村や町の名前と概要が記されている。京都まで12日を要しているが未明に出発する早立ちが時折あって先を急いでいる感がある。京都では知恩院、三十三間堂を見学している。遠州では夜…

森鴎外 細木香以 (1917)

幕末の江戸のお大尽で文人だった細木香以(さいきこうい)の考証だが作者である森鴎外の家の事情から説き始められるので何だか混乱する。が、よく読めば鴎外と細木香以の接点を縷々述べているのである。細木自身も俳諧を能くするが取り巻きの方に当時の文化…

曲亭馬琴 著 壬戌羇旅漫録 (1803)

曲亭馬琴 著 壬戌羇旅漫録 (1803) 南総里見八犬伝の作者曲亭馬琴36歳のときの東海道中の記録。吉川弘文館の日本随筆大成第一期第一巻所収。これを読んでゆくと当時の宿場や地方の風俗、古跡、名所が出てきて江戸時代の徒歩旅行の楽しみの一端が味わえる。…

島木健作 赤蛙 (1948)

青空文庫で読んでみると冒頭の修善寺の旅館での不当な扱いに作者が憤慨するくだりが明晰な文章で心に迫ってくる。さらに福島の温泉でのハラワタが煮えくりかえる様な経験にも言及している。昔教科書で読んだときの読後感にはそういう印象が無かった。いろい…

新藤兼人 ひとり歩きの朝 (2002)

新藤兼人監督が88歳を迎えた頃に書かれたエッセイ集。一読してこの老い方を追体験するのがいいなと思った。赤坂のマンションに家政婦をお願いして一人で住み、散歩しては自分の仕事をする。映像作家なので映画も見るし読書もする。まとめ上げたいシナリオに…

森鴎外 鶏 (1909)

近衛師団軍医部長から小倉の軍医部長に左遷された鴎外は10年後に手記のような掌編をまとめ昴に発表する。 本編は主人公の石田が小倉入りするところから詳細に記されている。家を借り女中を雇い単身生活を始め師団本部に勤務する最初の2ヶ月余りの様子が描か…

西川裕介 ウランバートル俘囚記 (1993)

東京商科大を出たあと日本光学に勤務していた著者は昭和19年に応召されすぐ北支戦線に送られる。そこで初年兵として訓練を受け河北省の分屯地で守備に当たっていた。そこで八路軍と交戦するのだが向こうは殲滅を狙ってくるし急に装備が良くなるので油断でき…

森本達雄 編訳 原典で読むタゴール (2015)

日本紀行 抄 の章で日本人が争わない事についてこう述べている。無益な叫びや口論によって精力を浪費せずその力を有用な事に使うのでいざという時に力を発揮できる。自己表現を思い切り簡素化する事で俳句のような三行詩を生み出し、花鳥風月を静かに追い求…

内藤正典 トルコのものさし日本のものさし (1993)

著者は東大教養学部の科学哲学に進んだ人で今は中東の研究者として有名になっている。この本は研究者としてアンカラに住みトルコ人と実際に付き合った経験から書かれている。読んでみるとトルコ映画を観た時のトルコ人の印象とほとんど違っていないのに気づ…

立岩真也 人間の条件 そんなものはない (2011)

哲学っぽい題名だが中身は机上の社会学だと思う。ベーシックインカムがあって、弱者が望むだけの全てを得て、財産は不要なので全員が頑張る必要はなく欲しい分だけ労働すれば良いーーーーーこれらを実現するためにはちょっと考えただけでも①強力な官僚統制②…

ロベール・ド・クラリ 伊藤敏樹訳 コンスタンチノープル遠征記 (1220年頃)

この書は第4回十字軍に従軍したフランク王国の騎士が口述したものである。この世界史上際立つえげつない蛮行も事情を聴いてみるとなるほどと思える。要するに大義名分さえ立てば泥棒の行為も平気というのがあちらの人々の習わしなのだ。この場合は皇帝の直…

ブライアン・バークガフニ 庵 (1995)

カナダ、ウィニペグ生まれの著者がオタワの大学に進み一年休学して自分の貯金でインド旅行を試みる。ロンドンから入りヨーロッパを横断しギリシャ、トルコ、イラン、アフガニスタン、パキスタンと進む。イランでは嫌な目にあってすぐ出国した。テヘランにい…

今昔物語集と聊斎志異

久米の仙人の件で今昔物語集と徒然草に当たってみた。今昔物語集の方はいいとして徒然草第八段の短さには驚いた。まるで僕のブログ並みの手抜きだ。聊斎志異の辛十四娘を読んだ。牡丹灯篭と似ているなと思った。牡丹灯篭は明代の剪灯新話に載っている話らし…

埴谷雄高 死霊 その6

首猛夫は自己の妄想をギリギリまで絞り出してとうとう死の社会学という概念を得る。これと黒田健吉の無限大の逸脱、三輪与志の虚軆、それに矢場徹悟の考えている何かを合わせれば大思想というべきものになるのではないかと首猛夫は眼を輝かせながら思った。…

埴谷雄高 死霊 その5

かつての旧制高校時代に寮の小図書館に居住していた黒川健吉は都内の大学に進学したが今は郊外に屋根裏部屋を借りて一人で住んでいる。大学へはほとんど行かず昼間は寝て夜になると徘徊するという毎日である。近所に住む朝鮮籍の人物と懇意になり時々挨拶を…

埴谷雄高 死霊 その4

墓地へ向かう自動車の中で首猛夫が夫人に解説する。与志が取り憑かれているのは取るに足らぬ玩具だが、その玩具が一度悪魔になると若者にとってはそこから抜け出る事は難しい。抜け出るにはさらに大きな悪魔が必要になると云う。今度は悪魔について解説を始…

埴谷雄高 死霊 その3

津田家の祖母の埋葬の日、首猛夫は津田家に突撃した。津田康造は応接間のソファでアラビアの技術史本を読んでいた。錬金術と王水の記述に感銘を受けたようだ。首猛夫は元警視総監である康造に問答を仕掛けそれに康造が応答する。どうやら首猛夫は一匹オオカ…

埴谷雄高 死霊 その2

三輪家と津田家の関わりについて作者は語る。13歳の津田安壽子が三輪家の次男与志に一目惚れした事から母親の津田夫人が動き始める。ある日の真夜中、三輪家に乗り込んで行った津田夫人は父親の三輪廣志と問答をする。それがなかなか珍妙で津田夫人の過激だ…

埴谷雄高 死霊 (1946)

瘋癲病院(精神病院)を訪れた三輪与志は矢場徹吾の主治医である岸博士と面会する。矢場徹吾は与志の旧制高校時代の親友である。回想風に寮生時代のエピソードが出てくるがみな変人ぞろいである。矢場は寮に面会に来た少女と共に姿を消していた。それが刑務…

司馬遼太郎 草原の記 (1992)

とりとめのない連想によって書かれたようなエッセイだ。匈奴、趙、胡服、武霊王、アッチラ、マジャール人、ラマ教、ミヌシンスク遺跡、スキタイ、キルギス、ウランバートル、オゴタイ・ハーン、ケルレン川、カラコルム城、北帰、満洲人、黒貂、イェルマーク…

村上春樹 ねじまき鳥クロニクル 第2部予言する鳥編 新潮文庫

主人公の岡田トオルの妻クミコが突然家出をしてしまい主人公が途方にくれるところから始まる。風変わりな女性達が入れ替わり立ち替わり現れる。どうやら主人公はとてもモテる男らしい。 読んで行くと離人症の症状と思われる記述が出てくる。 「僕はあの男と…

村上春樹 羊をめぐる冒険 (1982)

ほぼ読了した。第1章の「水曜の午後のピクニック」は早稲田色満載の独立した短編だと思う。第2章からが本編で主人公の離婚から始まる30才になる男の喪失感がテーマのようだ。若い頃の感受性は希薄化し現実が現実感を失う瞬間がよく出てくる。黒い巨大権力に…

アフガニスタン輝ける至宝戦禍を超えて

NATIONAL GEOGRAPHIC日本語版2008年6月号アフガニスタン輝ける至宝戦禍を超えて アフガニスタン国立博物館の宝物が残った経緯とハイクオリティな写真が12点掲載されている。以下その目録。 黄金の首飾り ティリヤ・テベ出土 紀元1世紀 象牙の彫刻 べグラム出…

村上春樹 羊をめぐる冒険 (1982)

お盆休みに読んでみた。書店で本をめくってみて安部公房風のシュールな章題に惹かれたからだ。「余計な詮索をするつもりはないんだ」と彼は言いわけをした。「でも彼女とは僕も友だちだったしさ、ちょっとしたショックだったんだよ。それに君たちはずっと仲…

プラトン 饗宴

美貌の劇作家アガトンの受賞記念の宴会に招かれたソクラテスはその道すがらアリストデモスに呼び止められるが一緒に宴会に行こうとアリストデモスを誘う。ソクラテスはアリストデモスを誘っておきながら宴会の半ばになってやっと現れる。奇行の人のようだ。…

プラトン ソクラテスの弁明、クリトン

メレトスによる「ソクラテスは若者を堕落させるがゆえに、また国家の崇める神々を崇めずに別の新奇な神格を崇めるがゆえに不正を犯している。」という告発文を受けた裁判でソクラテスはこのように弁明した。なぜこの人たちは証拠をあげて私を支持するのでし…

遠藤誉 チャーズ 中国建国の残火 (2002)

八路軍による長春包囲戦については概要程度の解説はあるものの実態がどうであったかは知り得ないと思っていたが、張正隆の雪白血紅(1989)とこの著者のチャーズ 出口なき大地(1984)にすでに書き記されていた。この本は新たな書き下ろしのようだが読んで…

満洲で起こった事

もう大体分かった。 赤い月の家族(なかにし礼)のように牡丹江にいた人も新京に集結して粘っていればアメリカのおかげで安全に日本へ帰れたということになる。一方特権階級だった家族(藤原てい)のようにいち早く列車で新京を脱出した組は朝鮮で足止めされ…

シーナ・アイエンガー 選択の科学 (2010)

テレビは最終回を録画して見たし所々に新説もあると感じたが、このかなり厚手の本を読んでもそれほど楽しくは無かった。この論考の目的は幸福になるための方法を明らかにするという事のようだが引き合いに出された不幸の数々を読む事でかえって暗い気持ちに…

加治将一 龍馬の黒幕 (2009)

大体読み終わった。グラバースキームという言葉が出てくる。無血革命論者の龍馬が内戦前夜に暗殺された、ということは内戦を起こしたい勢力の仕業だなと推測できる。とすると①外国の武器商人(グラバー)、②本国政府(パークス、アーネスト・サトウ)、③岩…

ローマ亡き後の地中海世界4

大体読み終わった。この本の変わっている所はロードス島の攻防は別巻を読め、レパントの海戦はこれまた別巻を読めとなっていてその部分は端折ってあることだ。その代わりマルタ島攻防戦は詳しく書いてあった。なかなか感動的だった。トルコ人はオスマントル…

Rock The Discography

1992 年にシンコーミュージックから出た本。これを参考にレコードコレクションを作ろうとしたが上手くいかなかった。せめてどんな音楽だったのか確かめてみよう。オールマンブラザーズバンドから。

村上春樹 遠い太鼓 (1990)

ギリシャ、スペッツェス島の描写。しばらく走ると眼下に小さな集落が見えてくる。緑の松林と青い海の間に、こぢんまりとした白壁の家が何軒か肩をよせあうように並んでいる。白い砂のビーチがあり、簡単な船着場があり、タヴェルナがあり、その先の方には円…