遠藤誉 チャーズ 中国建国の残火 (2002)

   八路軍による長春包囲戦については概要程度の解説はあるものの実態がどうであったかは知り得ないと思っていたが、張正隆の雪白血紅(1989)とこの著者のチャーズ 出口なき大地(1984)にすでに書き記されていた。この本は新たな書き下ろしのようだが読んでみて劇的であり完成度が高いと思った。あまたのフィクションが色褪せて見えるほどだ。また世界史の見方にも裏から透視したような分かりやすさがある。例えば日本で安保闘争が湧き上がっていた時周恩来が何を叫んでいたか、毛沢東の台湾解放の野望がいかにしてスターリンによって潰されたか、英米蒋介石らによるカイロ宣言の目的などがなるほどと納得できるのである。

 
  著者は新京製薬の社長令嬢だが包囲された状態から一家で脱出、飢餓と病気で兄弟を二人失い本人も死の瀬戸際まで行きながら何とか生き延びて帰国する。その後彼女は大学教授にまでなった。弟も医学博士になった。