ETV特集 ドナルド・キーンの日本 前編

         ドナルド・キーンは4年前に日本に来てから東京都北区に一人で暮らしながら仕事を続けている。キッチンでネギとホタテを炒めている。講演会では自分のことを日本文学の伝道師だと言う。一番深く感じたのは徒然草だと言う。大変苦労して翻訳した。キーン家の墓に案内してくれた。ここに骨を埋める迄に日本人になりたいという。

    成績優秀なキーン少年は飛び級でコロンビア大学に入学する。源氏物語に触れてその繊細さに感動する。日米開戦の新聞記事を見て驚くが海軍の日本語学校に入学する。よく勉強し画数の多い漢字が好みという。キーンはアッツ島に送られる。そこで手榴弾で自決した日本兵を見る。不可解だと思った。キーンは兵士の日記を解読する仕事を始めるがすぐ日本人の人間的な一面に気付く。昭和28年に京都に留学する。当時の下宿に案内してくれる。希望を聞かれ3食日本食にしてくださいと言ったという。キーンは宴会に呼ばれ座敷から桜を見てある疑問を抱く。なぜそんなに桜が好きかと訊くといろんな答えが返ってきたが儚いというキーワードを得る。

   谷崎潤一郎との交流を語る。老大家の谷崎の前では緊張したという。細雪を読んだ感想を述べると谷崎は自分の日本観を話してくれた。聞き手の渡辺謙と季節の変化について語る。それは日本人の挨拶によく表れているという。川端康成の鎌倉の家を訪れる。川端と接する度に彼の尋常でない物の美しさを見抜く力を感じたという。雪国の中の会話の英訳の困難さを訴えると川端は曖昧さ、余白こそ日本的なものだと言う。キーンは戸惑うが考えた末、遠回しの表現を試みようと開眼した。

    キーンは日本人の特徴をこうまとめている。
 
    あいまい(余情)
    はかなさへの共感
    礼儀正しい
    清潔
    よく働く

    魏志倭人伝の記録にも倭人は清潔で礼儀正しいとあるという。源氏物語の敬語についても語る。きれいには清潔と美しいの二つの意味があるという。宗教的なものから来ているという。

    ニューヨークに三島由紀夫の手紙を100通保管しているという。三島は天才だと言う。キーンは彼の作品に感嘆し次々と英訳する。それらは高い評価を得、商業的にも成功する。LIVNG JAPANという本では褻と晴(けとはれ)について言及している。安部公房との交流を語る。彼は自然科学者であり正直な人という。
 
    コロンビア大学で教鞭をとっていたキーンは川端康成ノーベル文学賞受賞の知らせを聞きとても喜んだ。その2年後三島由紀夫が自決するが驚くとともにその理由を分析している。三島との思い出を書棚の前で顔を赤くして語っている。三島の手紙の中に自分は武士として死にたいという文言があるという。