東洋文庫 アラビアンナイト別巻 アラジンとアリババ

アッラー・ディーンと魔法のランプの物語

  アッラー・ディーンは仕立て屋の息子で、父の死後母と貧乏に暮らして居た。アッラー・ディーンは決して良い子では無くろくでなしだった。ある日西方から来た悪いマグリブ人がアッラー・ディーンを見つけ自分は叔父だと言いくるめ城外に連れ出す。そこには魔法で封印された地下の貯蔵庫がありアッラー・ディーンだけが入れることになっていた。アッラー・ディーンは言われた通り古いランプと果実の様に木にぶら下がっている宝石を懐に入れ、いざ出ようとすると後一歩のところで段差を超えられない。怒ったマグリブ人はアッラー・ディーンを閉じ込めて帰ってしまった。

  しかしマグリブ人に貰った指輪の魔力で地上に出る事が出来たアッラー・ディーンは家に帰りランプの凄い魔力に気付く。アッラー・ディーンは出て来た魔人に命じて豪華な食事を用意させ高価な食器を市場で換金してしばらく暮らして居た。ある時アッラー・ディーンはスルタンの姫君の姿を盗み見て恋に落ちる。母親と共同してスルタンに超豪華な贈り物を贈りまんまと姫君と結婚する事に成功する。魔法をフルに使って超豪華な宮殿も建て姫君と何不自由のない暮らしを送る毎日だった。ところが復讐の鬼と化したマグリブ人が再びやって来て巧妙な奸計でまんまとランプを奪う事に成功する。新しいランプを作らせて古いランプと交換したのである。
  ランプを奪ったマグリブ人は魔力で宮殿ごと北アフリカの地へ飛ばしてしまい何も知らないアッラー・ディーンは窮地に陥る事になる。なんとか斬首を逃れたアッラー・ディーンは指輪の魔力で宮殿の場所を探り当て忍び込んだのち奸計を用いてマグリブ人の首をはねる。再び魔力を得たアッラー・ディーンは宮殿を元の場所に戻し暫く幸せに暮らしていた。

  今度はマグリブ人の弟が復讐に燃えてやって来る。聖女の姿をして宮殿に潜り込みアッラー・ディーンを殺そうとするが返り討ちにされ今度こそアッラー・ディーンは栄華を極めた一生を送るのである。

  敬虔なイスラム教徒のアッラー・ディーンが絵に描いたような欲望を満たす物語である。物語に出て来る数々の豪奢な財宝、女人、奴隷、建築、工芸などはスルタンや王族が求め実際に手にしてきた物の極限の理想を表している。アラブ世界でも身分の違いは重視されるが儒教圏ほどでは無く、この物語の様に財力でひっくり返るという自由さがあるのである。