東洋文庫 アルパムス・バトゥル (1948)

表題作は16〜18世紀のカザフに伝わる伝承を語り手であるスルタンクル・アッコジャエフから採取しテキスト化したものである。カザフの伝承はすでに多くの研究者により採録され出版されている。

コングラトという国にバイボルという裕福な男がいた。バイボルは9万の家畜と8万のラクダ、無数の馬を草原に有していた。だがバイボルには息子がおらず80歳になった時神に嘆願して言った。「子供が一人もいないなら家畜は人手に渡ります。」下女が生んだ子を養子にしたが養子は「耄碌じじい」と毒づいて出て行ってしまった。嘆き悲しんだバイボルは妻のアナルクと共にスルタンの廟に願を掛けに旅立つことにする。荒野を行き、砂漠を行き聖者の廟にたどり着いた。宝石を積み上げてホジャに寄進したが何の兆しもなかった。二人はさらに進んでサマルカンド、オトラル、サイラムの廟を訪れる。ババタにあるウスカク・バプに参拝しで90日待ったが誰も夢枕に立たなかった。高い峰に登り湖のほとりで礼拝しているとロバにまたがったターバンの聖者が現れて言う。「一人の息子と一人の娘を得るだろう。」二人は喜んで交わるとアナルクは妊娠する。アナルクはつわりに苦しみながらも豹の肉を食べながら故郷にたどり着いた。こうしてアルパムスという息子とカルルガシュという娘が生まれた。

アルパムスは勇士に成長するがやがてカルマク(オイラート・モンゴル特にジュンガルを指す)との戦闘になる。ついに敵のカラマンとの一騎打ちになる。駿馬シュバルに乗ったアルパムスは逃げるが追いついたカラマンの両手を折り勝利する。勝利の宴が開かれグルバルシュンを娶ることになった。茶、ジュース、砂糖、蜂蜜、馬肉ソーセージ、たてがみの肉が振舞われた。

カラマンが再びやって来て家畜を奪い去って行った。カラマンと再び対決することになったアルパムスは敵の罠にかかり囚われの身となった。7年間地下牢にいるアルパムスにカラコザユムという男がシュバルを連れて助けに来る。自由になったアルパムスはいよいよカルマクとの決戦に向かう。この後がとても長いのだがハッピーエンドで終わっている様だ。

カザフとジュンガルの因縁の対決は映画 ダイダロス 希望の大地 (2012)にも描かれているがこの話とは特に関係ないようだ。