東洋文庫 晩清小説史 (1937)

この書は阿英(1900ー1977)による文芸評論で晩清期(1840ー1912)の主な小説の紹介、時代背景の解説、小説論からなる。

李伯元(李宝嘉)(1867ー1906)の作品では「官場現形記」が有名であるが本書では「文明小史」を紹介している。湖南の永順事件についての記述がある。

永順は山あいの盆地に人が住み井戸を掘り田や畑を耕している様なところである。ここに鉱山の調査のため外国人がやって来たが宿屋でホーロー引きのコップを壊されたという事件が起こる。府知事はびっくり仰天して関係者を逮捕、武官の試験も中止し県知事と共に外国人の元を訪れ謝罪する。府知事は戦々兢々として外国人が帰るまで試験をやるどころでは無いという。不満を持った受験生の一人が商人にストライキを呼びかけ群衆を集め役所に押しかける。蒼ざめた府知事は外国人はすでに逃げたと群衆に伝えるが群衆は今度は旅館に押しかけて門を壊して乱入、掠奪を始めた。群衆が城内に戻ろうとした時に鎮圧軍がやって来た。外国人は城外に逃れ中国服を着て病人を装い投宿したが馬賊に間違えられ県に護送される。結局首謀者は逮捕、府知事は挙人を殴ったかどで免職となり外国人には賠償金が支払われた。後任の知事は首謀者を懲罰し多くの秀才を逮捕し新たに城門税、橋税を課したので全城市はストライキに入り群衆は税務所を打ち壊した。この事が省に知られ知事は免職になり退去する時に民衆に叩きのめされた。

次に呉趼人(呉沃尭)の「二十年目睹之怪現状」について述べている。九死一生という主人公が商売で国中を視察して回る。その二十年間に見聞きしたことが書いてある。次々と出てくる人物とその会話、当時の海軍の内幕なども書かれている

次いで曽樸(1872―1935)の「孽海花」を紹介している。これは戊戌の政変までの30年間を描いた長編政治小説であり多くの名士、革命家が登場する。当時の読者に熱烈に支持された。

次いで劉鶚(りゅうがく)の「老残遊記」が紹介される。主題は官吏の批判だがちょっと変わっていて不正をする役人より清廉な役人の方が人を殺すし国に害を与えると主張する。東洋文庫に収載されている。