東洋文庫 羅生門の鬼 島津久基 (1929)

本書は島津久基博士による民話・伝説の論考集で昭和4年に新潮社から出版されたものである。標題の羅生門の鬼には力が入っていて特に詳しく述べられているがさらっと書かれたものもある。

トッカッピ

何とか薬の宣伝なぞと早合点してはいけない。トッカッピというのは、朝鮮のお化けで、漢字で書けば「独脚鬼」、まずは内地の百物語の立物、一本足の傘君の向うを張る偉者であるらしい。

トッカッピは放火の常習犯だそうで、原因不明の火災は、大抵この鬼の悪戯からだとは物騒である。其の代わり、此のトッカッピを祭ってやって、仲善しになれば、他処のお金を攫っては運んで来て、いつのまにか財産を殖やしてくれる。が若し一朝仲違いすると、其のお金を又残らず持って行ってしまわれて、忽ち元の木阿弥になると信ぜられている工合は、内地の飯綱使いみたいである。

此の後『化物草紙絵巻』、『付喪神』、『陰陽雑記』、『昔語質屋庫』から引用して論じている。いかにも博覧強記という感じがするが筆致は軽い。