東洋文庫 パンソリ 申在孝 (1870年ごろ)

本書は民衆の芸能であるパンソリを 申在孝が脚色、筆録したものの日本語訳である。四つの演目が収録されているが冒頭にある「春香歌」の内容はこんなものである。

湖南左道の南原府に妓生の娘として生を受けた春香は絶世の美女であった。府使の令息である若君は広寒楼に遊んだ折に見かけた春香の美貌の虜になり春香と強引に契りを結んでしまう。両班だが科挙合格もしていない青年ゆえ春香の母は百年の佳約を結ぶ書付をしたためさせている。夜昼となく通い詰める若君だが父が都に転勤となり同行せざるを得なくなる。春香とその母は嘆き悲しむ。新しく着任した府使が春香を呼んで夜伽を命ずるが春香は頑としてはねつける。怒り心頭に達した府使は春香を捕らえて投獄し拷問を加える。息も絶え絶えになった春香だがちょうどその頃科挙に合格した若君は地方の悪政を暴く暗行御史として南原に潜入する。バレないよう落ちぶれた旅人に扮した若君は府史の宴に入り込み冷遇される。が、やがて素性を現す。うろたえる官吏たちを尻目に若君は囚人を解き放ち春香も家に帰した。若君は府使を罷免し全羅道を行脚した後、都で春香達と幸せに暮らしたという。

この手のストーリーは中国や日本にもあるが朝鮮のはちょっと毛色が変わっている。読むとわかる。またこれは小説、映画にもなっていて春香伝(2000)という映画、春香秘伝(2010)というドラマが制作されている。本書には他に沈清歌、兔亀歌、朴打令が収録されてる。