東洋文庫 稿本 自然真営道 (1755)

江戸時代の医師、思想家である安藤昌益が記した書で思想のような医学のような内容がすっきり頭に入ってこない事が書かれている。刊本は三巻であるが出版されなかった稿本は百一巻もあり、再発見分九十二巻は東京大空襲で焼失した。現存しているのは十五巻であり、東洋文庫には三巻分が収録されている。

大序の巻の冒頭の部分を示す。

自然とは互性、妙道の号なり。互性とは何か。曰く、「無始無終なる土活真の自行、小大に進退するなり。小進木・大進火・小退金・大退水の四行なり。自り進退して、八気互性なり。」木は始を主どりて、其の性は水なり。水は終を主どりて、其の性は木なり。故に木は始にも非ず、水は終にも非ず。無始無終なり。火は動始を主どりて、其の性は収終し、金は収終を主どりて、其の性は動始す。故に無始無終なり。是が妙道なり。妙は互性なり、道は互性の感なり。是が土活真の自行にして、不教・不習、不増・不滅に自り然るなり。故に是を自然と謂う。

唯一分かり易かったのは弟子の仙確が師の人となりについて書いた文である。その現代語訳を紹介する。

ふだんの生業である医業では患者から貪ることは少なく、朝晩の飯と汁物以外にまったく特別なものは口にせず、酒も飲まず、妻以外の女と交わらない。道と関係ないことには、尋ねてもまったく語ろうとしない。逆に世のため道のためには、尋ねられなくても語り、片時も無益に過ごすことがない。自然真営道を実践して怠ることがなく、他人を褒めもしなければ誹りもせず、自慢もしなければ卑下もせず、上のものを羨まず、下ものを蔑むこともしない。要するに他人を尊ばず卑しめず、へつらわず貪らない。家計は貧しくもなければ豊かでもなく、借りもしなければ貸しもない。(略)

端的に言うと、無私の営み=直耕を実践し真営道を後世に伝えようとしたのが安藤昌益である。