大戦略論 ジョン・ルイス・ギャディス(2017)

本書はアメリ海軍大学校とイェール大学で開講されたプログラムの精髄を一冊の本にまとめたものであるという。その内容は精選された歴史上の戦争を俎上にあげて「ハリネズミとキツネ理論」に基づいて指導者の遂行能力を評価するというものである。例えばペルシア戦争におけるクセルクセスは欧州征服という野望を抱くハリネズミであり、叔父で顧問のアルタバノスがキツネである。ハリネズミが遠くの目標に一直線に進んで行く存在ならキツネは細かい事に気づき処理して行く存在であるという。結局ペルシア戦争ではアルタバノスが途中で離脱し、クセルクセスがギリシャ本土に大軍を侵攻させるがギリシャ海軍の反撃に会い大敗する。

このハリネズミとキツネという相反する二つの知性を兼ね備えた人物だけが難事業を達成できるという。例えばリンカーンがそうであり議会の反発を食らった奴隷解放宣言を成立させている。本書はグランド・ストラテジーつまり無限になりうる願望と有限である能力を釣り合わせる技術について学ぶためのもので、これを身につける事で直面するであろう試練に備えることができるという。

実際、戦争を勝利に導いたり、会社の経営を成功させたり、トップに上り詰めるような人は二重思考ができるか或いはソニーを成功させた井深大盛田昭夫のコンビのようにお互いの欠点を補うことで上手く行くというような事では無いだろうか。このグランド・ストラテジーを理解すると、よく耳にする夢を諦めないでというメッセージはお前はハリネズミで居ろと言っている陥穽である事に気づく。