映画 異人たちとの夏 (1988)

現代、浅草、志怪小説というキーワードから山田太一が本を書くとこのようになる。主人公原田(風間杜夫)は売れっ子のシナリオライター、妻と離婚し都心のマンションで仕事をしている。交通事故で両親を早く失っている。このマンションは夜はガラ空きになり、主人公と謎の美女(名取裕子)だけになるという。

謎の美女とのやりとりは如何にも山田太一流で岸辺のアルバム、沿線地図などを彷彿とさせる。どちらも軽い感じでは相手を口説けないのだが、そこは誠意で何とかしようという算段なのだ。今回は謎の美女が言い寄ったが原田が拒絶したことがトラブルの発端となる。

地下鉄を通じて異世界に入り込んだ原田はふと訪れた浅草の映画館で死んだはずの父を見つけて驚く。誘われて家までついて行くと母までいた。ビールと食事をご馳走になりまたおいでよと言われる。何度か訪れる内に原田はどんどんやつれてゆくのである。

この異世界の両親は主人公をとって食おうという風でもないのだがとうとうある日の事、父が「俺たちが生きていれば云々」と言い始めた。その日帰って来ると衰弱した原田は恐ろしい姿に変わっていた。もうこの時は謎の美女と何度も寝ていて彼女は原田にアドバイスする。

主人公の原田は彼女に言われた通り両親にもう会いませんと告げに行く。この時の原田は普通の姿に戻っていた。両親はそれも仕方がないと納得してくれた。最後に三人ですき焼きを食べに行く。八目鰻で精をつけ堅焼きせんべいも食べようとするが売り切れだった。今半別館の座敷ですき焼きを食べることにする。ここでも父は「死んだ人間が肉を食っても云々」というのである。もうすぐ両親が消えると悟った原田は感極まって両親に感謝の辞を述べる。両親はあばよと言って消えていった。食べかけのすき焼きを残して。原田が気がつくと謎の美女の部屋にいた。

最後にネタがバラされる。謎の美女は自殺しており原田と寝たのは幽霊だったのである。幽霊が姿を現し原田を攻撃して来る。すんでのところで助けが入るが原田はドロドロに溶けてしまった。

とここで終了すれば一応は志怪小説だがこの後に蛇足がいくつも付いていてハッピーエンドになる。これでは結末が修正されたという印象が残るのである。ハッピーエンドになるためには怪異に対抗できる高僧が登場して、その法力で幽霊を退治しなければ志怪小説として不完全なのではないかと考察した。