東洋文庫 六朝詩選俗訓(1774)

本書は六朝時代の俗謡を江戸時代の田中江南が訳し訳注を加えたものである。原詩は宋代の『楽府詩集』全百巻から採られたもののようである。書き下し文と訳を少し紹介する。

子夜四時歌                                                      武帝

春歌

蘭葉 始めて地に満ち

梅花 已に枝に落つ

此の可憐の意を持って

摘みて以って心知に寄す

訳 (ふじばかまの葉も生そめ)
(梅のちりつきるは 春もあだにたちゆくに)
(郎もすこしは 此草木ほどもやさしひ意に以玉へと)
(つみとりて 心のしれたる人にまいらする)

朱日 素氷を光し

黄花 白雪に映ず

梅を折りて 佳人に寄す

共に陽春の月を迎ふ

訳 (あかきひ しろきこほりをてらし)
(きなる柳の花 しらゆきにてり合)
(梅をおりて こひびとにまいらする)
(もろともに あらたまの春をむかへしことをよろこびてなり)

次に和文と訳注の一例を示す。

冬歌

ふちのこほりは 厚さ三尺にはり

しろたへの雪は ちさとにひりつもれど

松柏のかはらぬやうなわしが心中じや

きみのこゝろは またどのやうじや


さむきとて とりも大木にたちよれば

かれきとなりて かぜになきかなしむ

ぬしゆえに やつれはてるもの

いかで かほかたちがよくあろう

訳注 (女は三界に家なしと、夫一人を依にすること鳥の高樹を依にする如くなるに、其高樹も枯木となり、風が通すようになりては、鳥のたゝずみなり難く、鳴悲む如く、依にする夫が、家をすゝて出あるきては、身上枯木の如くになりて、妻の身で、泣悲まいでなんとしやう。是皆歓が仕方のあしき故にやつれはてるもの。どふ顔付もよからふぞ。)