東洋文庫 康熙帝伝 (1697)

本書はフランスのイエズス会士ブーヴェ(1656〜1730)によって著された康熙帝に関する報告書で、ルイ14世に献呈する目的で書かれたものである。その語り口は報告書と言うよりは子供に語り聞かせるようなものに近い。本文の一部を紹介する。

康熙帝は宝算正に四十四、即位以来、三十六年を経過しております。この皇帝は現に践祚されている王位に値しない資質は少しもお持ちではありません。堂々たる威風を備え、容姿は均整が取れていて、人並み以上であります。顔立ちはそれぞれよく整い、両眼は炯々として普通のシナ人の眼よりも大きくあります。鼻はやや鉤鼻で、先の方になるにつれて膨らんでおります。少しばかり痘痕が残っておりますが、そのために玉体から発する好い感じが毫も損なわれてはおりません。》

その仕事ぶりについても賛辞を惜しまない。悪政を行なった宰相の粛清、ロシアとの条約締結、直訴、呉三桂の乱、鄭成功撃退などについて述べ、質素倹約・質実剛健を体現した康熙帝の有様を縷々書いてゆく。

《公衙を修復し、また国民の便益と商業の便宜に資するところの河川や橋梁や小舟や、その他、類似のものを整備しておくためには、莫大な金額をドシドシ使用されます。この一事に徴しても、皇帝が私用の浪費を省かれるのは、ただ賢明な節約によるものであること、またこの皇帝は国民から絶対君主として仰がれると同時に、国父としても仰がれたいと願っておられますから、国家の絶対的必要のために、金銭を貯蓄されていることは判断するに難くないのであります。》

後半の康熙帝イエズス会士とのやりとりの記述は省略する。