失われた時を求めて (101)

(98)でアルベルチーヌに別れを切り出してから、優柔不断にも前言を取り消してしまったプルーストである。その後は彼女をブローニュの森に連れ出したりして機嫌を取りながら、あるうららかな日に本当の別れを告げようと考えたりしているのだ。あれから素直な態度を取り続けているアルベルチーヌだが、実際には何を考えているのかわからない。

独善的とも言えるプルーストの目論見に鉄槌が下される日が来た。ある春の日、窓を閉め切った寝室で目覚めたプルーストは街中の騒音を聞き、想像をめぐらせながらガソリンの匂いを感じたりしていた。今日はいよいよヴェネツィア旅行のためのガイドブックと時刻表をフランソワーズに買いに行かせよう、準備が整ったら手紙を残して自分だけ旅立つのだ、と思いついて呼び鈴を鳴らした結果、フランソワーズがやって来て発したのは、「旦那様、アルベルチーヌ様は手紙を置いて9時にお発ちになりました。」という衝撃的な一言だった。プルーストの息はとまり、冷や汗でぐっしょりとなるとともに、こういう言葉を吐き出したのである。以下引用文。(吉川一義訳)

《ああ、そうかい、ありがとう、フランソワーズ、もちろんぼくを起こさないでよかったんだよ。しばらくひとりにしてほしい、あとで呼ぶから。》

これで長い第十一巻もやっと終わった。さらに長い第十二巻に続く。