失われた時を求めて (115)

第13巻に入る。田舎でジルベルトと日課のように散歩しているプルーストがいる。夕日や羊の群れを見たり昔懐かしいヴィヴォンヌ川を見ながら、ジルベルトとおしゃべりを楽しんでいる。もはやプルーストは感受性を失っており、ジルベルトの美しさも無くなっていた。ここはタンソンヴィルという田舎でコンブレーのそばにあり、ジルベルトの夫ロベールの邸宅があるところである。プルーストはそこの一室に滞在している。

ジルベルトとのおしゃべりの中で昔の決定的な場面についての種明かしがされる。ジルベルト本人が語っているので間違いないのであろう。実はジルベルトの方がプルーストに一目惚れしており、無礼と思われた態度は気をひくためのものだったという。プルーストが奥手だったということだ。本文を少し紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《男の子たちとルーサンヴィルの天守閣の廃墟へ遊びに行っていたの。きっとしつけの悪い娘だとおっしゃるでしょうけれど、その廃墟のなかにいろいんな女の子や男の子が集まって、暗がりでいたずらをしていたの。(略)わたしはひとりで外出するのを許されていたので、家を抜け出せると、すぐにあそこへ駆けつけたものよ。あなたに来てもらいたいってどれほど願ったことか、とても口では言えないわ。よく憶えているけど、わたしの願いをあなたにわかってもらおうとしたって時間はわずかでしょ、で、あなたのご両親やうちの両親に見つかるのは覚悟のうえで、ずいぶん露骨な形であなたに合図を送ったの、いま思うと恥ずかしいくらい。でも、あなたはひどく意地悪な目でわたしを睨みつけたので、ああ、その気がないんだなって悟ったの。》