失われた時を求めて (116)

プルーストはロベール夫妻のことを醒めた目であれこれ評価しているが、ジルベルトの方が終わるとロベールの方に移る。ロベールは男色趣味でありながら多くの女たちと浮名を流すという、ゲルマント一族特有の行動をとるのである。プルーストの皮肉っぽい描写を紹介する。以下引用文。(吉川一義訳)

《たとえばロベール・ド・サン=ルーが私の居合わせた夜会に入ってくるときには、いくぶん薄くなった髪の黄金色の冠毛の下にある顔をまるで絹のように艶やかに、誇らしげに昂然ともたげ、首を人間のものとは思えないほどしなやかに、誇り高く、思わせぶりに動かすので、そのすがたにかき立てられたなかば社交的なかば動物学的な好奇心と感嘆の念を前に、人びとは自分が、フォーブール・サン=ジェルマンにいるのか、それともパリ植物園内の動物園にいるのか、眺めているのは大貴族がサロンを横切るすがたなのか、それとも鳥がケージの中を歩くすがたなのか、といぶかる始末だった。》

ジルベルトとプルーストの虚々実々な会話。

《「それは勘違いですよ、私の知り合いに、愛されている男からほんとうに監禁された女性がいますからね。だれにも会えず、男の忠実な召使いといっしょでなければ外出できなかったとか。」「あらまあ、やさしいあなたをぞっとさせるようなお話ね。そうそう、ちょうどロベールと話し合っていたところなの、あなたも結婚なさるべきだって。奥さまはあなたを丈夫にしてくださるでしょうし、あなたは奥さまを幸せにできるわ。」「とんでもない、私は性格がよくないものですから。」「まあ、なんてことを!」「いや、そうなんです!もっとも婚約したことはあるのですが、結婚する決心がつかなかったのです(相手の女性も自分からあきらめました。)、優柔不断のうえに口うるさい私の性格のせいです。」私は実際、アルベルチーヌとの情事をこのような単純きわまる形で総括していた。》