失われた時を求めて (118)

そのあとプルーストが療養所に入ったり第一次世界大戦が始まったりするが、この小説では時系列を追って詳しく述べられることはない。次のような少ない記述を心に留め置くしかない。以下引用文。(吉川一義訳)


《そもそもこのあいだ私は、書くことを完全にあきらめ、治療のためにパリから遠く離れた療養所ですごしたのだが、一九一六年のはじめには、もはや療養所に医療スタッフがいなくなった。
そこで私はパリへ戻ってきたが、そのパリは、すぐあとで見られるように、私がすでに一九一四年に診察を受けるために一度戻ってきてふたたび療養所へひき返したときのパリとは、ずいぶん様相を異にしていた。》


パリ社交界の新情勢について述べつつ、わかりやすい世界史解説的な記述もでてくる。


《その夫がかつてドレフュス事件において「エコー・ド・パリ」紙で厳しく糾弾される役割りを演じたからといって、いまだにボンタン夫人を赦せない人などいるわけがなかった。ある時点から議会の総意が再審支持になったのだから、社会の秩序と宗教上の寛容を重んじつつ軍備を進める党派としても、必然的に昔の再審支持派や昔の社会党員から賛同者を募らざるをえなかったのである。》