失われた時を求めて (123)

不思議な現象を観察したシャルリュス氏はこう語っている。以下引用文。(吉川一義訳)

《「それに奇妙なことがあって」とシャルリュス氏は、ときに発するかん高い小声でつけ加えた、「一日じゅう幸せそうにしていて、上等のカクテルを飲んでいるような人たちがね、戦争が終わるまでは生きていられないとか、心臓がもつまいとか、そんなことを言うのを耳にする。しかもとうてい信じられんことに実際そうなる。なんて不思議なことだろう!食べもののせいかねえ?(略)まったく、驚くべき数になるんだ、この奇妙な早すぎる死が。」》

またこんな事も語っている。

《「このご時世に、シャルリュスと署名した手紙がウィーンに到着するのは私だって避けたかったんだ。あの老君主の批判が許されるのなら、私がいちばん批判したいのは、あれほど血統が高貴でヨーロッパ随一の由緒ある名家の当主であられるかたが、ヴィルヘルム・フォン・ホーエンツォルレンなどという、そもそも頭はよくてもただの成り上がりにすぎぬ、しがない田舎貴族なんぞのいいなりになったことだ。これは今度の戦争で最も不愉快な異常事態のひとつですな。」》

こういうのは小説の常である筆者が思っている事を登場人物に言わせている部分なのだろう。