失われた時を求めて (139)

ゲルマント大公邸での500人を集めてのパーティーも中盤にさしかかり出し物が登場する。ラシェルによる詩の朗読が始まった。ジルベルトと会話中だったプルーストは、その大げさな演出に驚き皮肉を込めた描写をしている。以下引用文。(吉川一義訳)

《予告された詩がおよそみなの知るものだとわかり、人びとは喜んでいた、ところが女優が、いざ朗読をはじめようとして、血迷ったような表情で目を宙にさまよわせ、懇願するかのように両手を上げ、やがてうめくように一語一語を発するのを見たとき、みなはこの手の感情の露出に困惑し、不快感を覚えた。詩の朗読がこんなものになりうるとはだれひとり想ってもみなかったからである。》

この朗読をフォルシュヴィル夫人(オデット)は真剣な顔で聴いていた。それとは対照的にゲルマント大公夫人(ヴェルデュラン夫人)は大げさに歓声をあげて盛り上げる。観客の反応はまちまちで、ブロックがやって来て称賛するのだが、文学に造詣のあるジルベルトはこう評した。以下引用文。

《「四分の一は演者の創作、四分の一は狂気、四分の一は無意味、残りはラ・フォンテーヌのものでしょう。」》

これを聞いたモリヤンヴァル夫人は何の意味かわからない様子である。