失われた時を求めて (141)(完)

プルーストはこれまでの追憶をよせ集めるようにしてある結論を導き出している。以下引用文。(吉川一義訳)

《私はいまや元ヴェルデュラン夫人のところでサン=ルー嬢に紹介されようとしている。そのサン=ルー嬢にアルベルチーヌの代役になってくれるよう頼もうとした私は、なんという魔力に魅せられて想いうかべたことだろう!そのアルベルチーヌと私はヴェルデュラン夫人のところへ行くために小さな路面に乗って何度もドーヴィルのほうへ旅をしたのだ、しかもその同じヴェルデュラン夫人こそ、私がアルベルチーヌに恋する以前、サン=ルー嬢の祖父と祖母の恋をとり持ち、さらにその仲をひき裂いた張本人なのだ!私たち招待客のまわりにはエルスチールの画が何枚も掛っているが、そのエルスチールこそ、私をアルベルチーヌに紹介してくれた人なのだ。そしてヴェルデュラン夫人は、こうした私の過去のすべてをよりうまく融合させるかのように、まるでジルベルトを真似るかのように、ゲルマントの一員と結婚したのである。》

 

《Et ma présentation à Mlle de Saint-Loup allait avoir lieu chez Mme Verdurin devenue princesse de Guermantes! Avec quel charme je repensais à tous nos voyages avec Albertine —dont j’allais demander à Mlle de Saint-Loup d’être un succédané —dans le petit tram, vers Doville, pour aller chez Mme Verdurin, cette même Mme Verdurin qui avait noué et rompu, avant mon amour pour Albertine, celui du grand-père et de la grand’mère de Mlle de Saint-Loup. Tout autour de nous étaient des tableaux de cet Elstir qui m’avait présenté à Albertine. Et pour mieux fondre tous mes passés, Mme Verdurin, tout comme Gilberte, avait épousé un Guermantes.》

 

これが最後にプルーストの描いた絵である。

この小説のクライマックスはこの午後の会でサン=ルー嬢が現れてプルーストがその容貌を満を持して褒め称える場面である。あらゆる形容が用いられるわりには本人が喋ったとかそういう記述がない。

このあとプルーストはこの小説が如何に構想され、執筆されたのかものすごい勢いで語ってゆく。追憶を交えながら、死の恐怖を語りながら。そしてとうとう私は(完)という文字があるページに到達した。