2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

失われた時を求めて (89)

次の記述はこの小説の核心に触れている部分である。以下引用文。(吉川一義訳) 《記憶というものは、人生のさまざまなできごとの複製をつねに眼前に掲げてくれるわけではなく、むしろひとつの虚無と言うべきで、われわれは現在との類似のおかげで、死滅した…

失われた時を求めて (88)

プルーストのこの頃の朝の目覚めに関する叙述を示す。以下引用文。(吉川一義訳) 《そもそも一時間も余計に眠ると、しばしば卒中の麻痺に見舞われたも同然の状態になり、そのあとでは手足の動かし方を想い出し、口の利きかたを学びなおさなければならない。…

東洋文庫 塵壺 河合継之助日記 (1858)

本書は越後国、長岡藩士である河合継之助が三十三歳の時に記した旅日記である。本文の一部を紹介する。 《安政5年(1858年)6月7日(略) 品川に二艘の異船あり。何れも城のごとき有様、一艘の船、炮発丸、きみ好き事なり。川崎にて昼食を食す。神奈川へ八…

失われた時を求めて (87)

ある夜、嫉妬心からアルベルチーヌに意地悪したプルーストは、怒って部屋に帰ったアルベルチーヌの態度に驚き、うろたえる。この口調は寅さんの口上の様に聞こえる。以下引用文。(吉川一義訳) 《私がベッドから跳びおりたときは、アルベルチーヌはもう自分…