プルースト

失われた時を求めて (111)

アルベルチーヌへの思いが消えつつある頃、アンドレから聞かされたのはどぎつ過ぎる真相だった。モレルとアルベルチーヌの関係、アルベルチーヌがものにした娘とアルベルチーヌの関係、アンドレとアルベルチーヌの関係を明かされ衝撃を受ける。その時のプル…

失われた時を求めて (110)

プルーストは考察中に持論をさし挟んでくる。その一例である。以下引用文。(吉川一義訳) 《この世が誕生してこのかた、ある欠点がなんらかの形で見出される家族とそれと同じ欠点がべつの形で見出される家族とが結ばれて、子孫のうちに完全無欠なおぞましい…

失われた時を求めて (109)

一緒に訪れた地名やアルベルチーヌの名を想起させる人名に苦痛を呼び起こされるプルーストは神経衰弱のようになる。だがその一方で忘却の持つ威力についても感じるようになる。アンドレを呼び出して過去のアルベルチーヌの悪行を聞き出し、さらにショックを…

失われた時を求めて (108)

屋根裏の哲学者は箴言をひねり出すのが得意である。最後の余計な一言はプルースト流の皮肉であろうか。以下引用文。(吉川一義訳) 《人は、たったひとつの微笑みやまなざしや肩などに惹かれて、恋に陥る。それだけで、充分なのだ。すると人は、長時間にわた…

失われた時を 求めて (107)

プルーストはアルベルチーヌを忘れるどころかどんどん燃料を投下して苦痛を倍増させている。その苦悩の表現はまるで屋根裏の哲学者である。以下引用文。(吉川一義訳) 《ときには私の心と記憶とのあいだの交流が途絶えることがあった。するとアルベルチーヌ…

失われた時を求めて (106)

プルーストはアルベルチーヌの死についてあらゆる角度から検討し、仮定を元に推論し、各時代の文学的表現を用いて繰り返し述べるのだ。死を悼むこういう章句を見つけた。以下引用文。(吉川一義訳) 《アルベルチーヌは二度と戻ってこない、死んだのだ。わが…

失われた時を求めて (105)

センチメンタルな回想が続く。以下引用文。(吉川一義訳) 《天気の悪いある日曜日、それでもみなが出かけてしまって人けのない午後、風と雨の音に誘われて昔の私なら「屋根裏の哲学者」を気取りつづけたところだが、そのとき予期せずアルベルチーヌが会いに…

失われた時を求めて (104)

プルーストが次なる手段としてアルベルチーヌへ書いた手紙は、その内容たるや嘘が満載で本音と真逆の事が書かれており、本当に出しちゃうのかと思ってしまうがフランソワーズを呼んで出しに行かせるのである。続いてコントのようなやり取りが登場する。以下…

失われた時を求めて (103)

プルーストはパリにいるロベールを呼び出して援助を仰ぐ。だが色々と問題がある。アルベルチーヌの写真を見せた途端ロベールの顔色が変わった。さらにプルーストはこういうセリフをボンタン夫人に言うようにロベールに依頼する。以下引用文。(吉川一義訳) …

失われた時を求めて (102)

第十二巻に入る。アルベルチーヌがプルーストの顔も見ずに出て行った朝のプルーストの狼狽ぶりを笑って楽しむ所である。以下引用文。(吉川一義訳) 《それでもやはり、今しがた人生から余儀なくされた新たな一大転換のあとで私に課された現実は、物理学の …

失われた時を求めて (101)

(98)でアルベルチーヌに別れを切り出してから、優柔不断にも前言を取り消してしまったプルーストである。その後は彼女をブローニュの森に連れ出したりして機嫌を取りながら、あるうららかな日に本当の別れを告げようと考えたりしているのだ。あれから素直…

失われた時を求めて (100)

アルベルチーヌにドストエフスキーその他の文学論を論じた後この様に述べている。以下引用文。(吉川一義訳) 《というのも、レオニ叔母の財産を相続したときに私はスワンのようにコレクションを持とう、いろんな画や彫刻を買おうと心に決めたにもかかわらず…

失われた時を求めて (99)

音楽のもたらす陶酔についての重要な考察がある。なかなか面白いので抜き書きしてよく吟味する必要がある。以下引用文。(吉川一義訳) 《たとえばこの音楽は、私の知るいかなる書物よりもはるかに真正なものに思われた。ときに私はその原因は、人生において…

失われた時を求めて (98)

ついに別れる別れないの修羅場が訪れる。以下引用文。(吉川一義訳) 《たとえばその夜、帰宅した私が自室にいるアルベルチーヌを呼びに行き、私の部屋へ連れてきて「ぼくがどこへ行ったか当ててごらん、ヴェルデュランさんのところだよ」と言った時である。…

失われた時を求めて (97)

家路に向かう馬車の中での会話である。以下引用文。(吉川一義訳) 《「あの名家の勇士を侮辱する意図など微塵もなく申しますと」とブリショは帰りの馬車の中で私にはっきり言った、「ただただ非凡の一言ですな、なにしろあの悪魔の教理提要を、少々シャトラ…

失われた時を求めて (96)

シャルリュス氏の長い無駄話(といってもプルーストの関心を惹いたのは確かだが)が続いたあと、やっと次の場面にさしかかる。以下引用文。(吉川一義訳) 《私たちがしゃべっているあいだに、ヴェルデュラン氏は妻の合図でモレルを連れ出していた。そもそも…

失われた時を求めて (95)

演奏が終わり得意げな表情のシャリュルス氏だが、奏者に関して不用意な言葉を発したサニエットに激怒したのか、激しい言葉で彼を追い出したのである。そのためにサニエットは外で発作を起こし数週間後に死去するのである。招待客は行列を作ってシャリュルス…

失われた時を求めて (94)

我に返ったプルーストは再び音楽に集中し、その印象を言葉で綴り始める。以下引用文。(吉川一義訳) 《作曲家がそれぞれの響きの色合いを選んでほかの響きの色合いと調和させる。そのときの歓びが感じられたのである。というのもヴァントゥイユは、並外れて…

失われた時を求めて (93)

今晩の夜会が始まるまでに、プルーストはシャルリュス氏のことや貴族の序列のこと、ドレフュス事件のことに触れて行き、話題が循環する様相を示す。それでもやっと当時の音楽界の最新の話題が出る。以下引用文。(吉川一義訳) 《(略)『シェエラザード』と…

失われた時を求めて (92)

シャルリュス氏を遠くから見かけたプルーストは、話を拡げて行き同性愛の歴史について述べた後、小噺のような章句を挟んだりする。この小説は忍耐を必要とするプルーストの気ままなおしゃべりなのだ。以下引用文。(吉川一義訳) 《「ほら、あの男はね、中庭…

失われた時を求めて (91)

第11巻に入る。スワンの死から始まってアルベルチーヌの失踪で終わる長い巻である。冒頭からプルーストの毒舌が冴え渡る。少しメモしておこう。ソルボンヌの教授ブリショの眼鏡についての皮肉である。以下引用文。(吉川一義訳) 《(略)装着していた新式の…

失われた時を求めて (90)

囚われの女アルベルチーヌに関する長〜い話の中にこの様な記述が出てくる。以下引用文。(吉川一義訳) 《それはまだ私がアルベルチーヌと面識がなかったころ浜辺で、私とは犬猿の仲であったある婦人、いまの私にはアルベルチーヌと関係をもっていたことがほ…

失われた時を求めて (89)

次の記述はこの小説の核心に触れている部分である。以下引用文。(吉川一義訳) 《記憶というものは、人生のさまざまなできごとの複製をつねに眼前に掲げてくれるわけではなく、むしろひとつの虚無と言うべきで、われわれは現在との類似のおかげで、死滅した…

失われた時を求めて (88)

プルーストのこの頃の朝の目覚めに関する叙述を示す。以下引用文。(吉川一義訳) 《そもそも一時間も余計に眠ると、しばしば卒中の麻痺に見舞われたも同然の状態になり、そのあとでは手足の動かし方を想い出し、口の利きかたを学びなおさなければならない。…

失われた時を求めて (87)

ある夜、嫉妬心からアルベルチーヌに意地悪したプルーストは、怒って部屋に帰ったアルベルチーヌの態度に驚き、うろたえる。この口調は寅さんの口上の様に聞こえる。以下引用文。(吉川一義訳) 《私がベッドから跳びおりたときは、アルベルチーヌはもう自分…

失われた時を求めて (86)

プルーストの文章は美文調であったり、哲学的叙述であったり、卑俗な喜劇風のこともあるが、吉川一義氏の日本語訳は一貫して格調があり、語意は正確そのもので、文字面の見た目にも気を遣っているように思われる。この辺りの訳出文を見ていただきたい。 《「…

失われた時を求めて (85)

プルーストの日課はゲルマント夫人を訪ねてファッションの素材や仕立て方について教わり、それをアルベルチーヌのために作ってプレゼントしようとする事、部屋に帰りアルベルチーヌと遊ぶ事、友人が会いにくるとアルベルチーヌを隠して応接する事といったと…

失われた時を求めて (84)

本書の世間での反響が伺える記述がある。シャルリュス氏とヴォーグーヴェール氏の羽目を外したような散歩の光景を書いた後にこう述べている。以下引用文。(吉川一義訳) 《ジュピアンの店へ話をもどす前に、作者としては、かくも奇妙な描写に読者が不快を覚…

失われた時を求めて (83)

プルーストがバルベックを逃げ出した本当の理由を白状している。以下引用文。(吉川一義訳)《たしかにバルベックを逃げ出したのは、アルベルチーヌが笑いながら、もしかすると私をあざ笑いながら悪事をはたらくのではないかと怖れた私が、本人が二度とあれ…

失われた時を求めて (82)

第10巻に入る。パリに戻って来たプルーストはアルベルチーヌと同居を始める。母は二人の結婚には反対だが何も言えないでいる。今の状況をプルーストは箇条書きで簡潔に記している。以下引用文。(吉川一義訳) 《バルベックから帰ると私の恋人がパリで私と…