プルースト

失われた時を求めて (81)

第9巻の後半はエピソードの羅列に過ぎないが、プルーストの文章のキレが神がかってくる。この辺のやり取りは京都でよくある話とそっくりだと思う。以下引用文。(吉川一義訳) 《カンブルメール家の人たちは、その晩餐会を実際にはシックな世界の精華という…

失われた時を求めて (80)

パリ大学医学部教授コタール氏についてのプルーストの評価である。以下引用文。(吉川一義訳) 《ドクターは田舎女である母親の乏しい知恵袋からとり出された助言を胸にパリに出てきたあと、医学の道で出世をめざす者が長年にわたって積まざるをえない純粋に…

失われた時を求めて (79)

今回のバルベック滞在ではアルベルチーヌと自動車で散策し、訪ねてきた友人と会ったりしている。ホテルの従業員とも接するが、厳しい目で観察している。建前かもしれないがプルーストの人との接し方の原則が述べられている。以下引用文。(吉川一義訳) 《私…

失われた時を求めて (78)

ショパンの生演奏が聴けたらどんなに凄いだろうか。以下引用文。(吉川一義訳) 《「ショパンが演奏するのを聴いたことは一度もないが」と男爵は言った、「しかしその機会がなかったわけじゃない。私はスタマティのレッスンを受けていたが、そのスタマティか…

失われた時を求めて (77)

まあプルーストはお金持ちなので、アルベルチーヌとお出かけのときに馬車ではなく自動車を手配したのである。アルベルチーヌはことの外喜んだが、プルーストも乗ってみて驚いた。以下引用文。(吉川一義訳) 《要するに、サン=ジャンには二十分ほどで行ける…

失われた時を求めて (76)

モレルがバイオリンの腕を披露する。曲はフォーレの「バイオリンとピアノのためのソナタ第1番作品13」という実在のものである。その後にこのようなやりとりがあった。以下引用文。(吉川一義訳) 《その曲が終わると、私はフランクを聴かせてほしいと所望し…

失われた時を求めて (75)

晩餐会も佳境に入ってくる。ヴェルデュラン氏が「なにぶん私は貴族の称号をなんら重視しておりませんので」と言って薄ら笑いを浮かべ、シャルリュス男爵にさらにこう言ったのである。以下引用文。(吉川一義訳) 《「ただ、ほかでもないカンブルメール氏がお…

失われた時を求めて (74)

カンブルメール夫妻が到着する。カンブルメール氏の容貌についてプルーストはこう描写している。以下引用文。(吉川一義訳) 《(略)その風貌に驚いた。たしかに慣れれば気にならない。しかしその鼻は、これほどの不細工はないという唯一の輪郭をわざわざ選…

失われた時を求めて (73)

この小鉄道の旅で起こった小事件やらメンバーの会話、それにまつわる話を足してゆくと長い長い文章が出来上がるのである。まず三等切符しか持たない農夫がプルーストらの車室に迷い込んでくると、コタールは乗務員を呼んで農夫を列車からつまみ出すのである…

失われた時を求めて (72)

第9巻に入る。ひょっこりひょうたん島の様になって来た。ラ・ラスプリエールの晩餐会に出席するためにプルーストは小鉄道に乗る。この列車に今日出席する者たちが乗り合わせてくるのである。まずパリ大学医学部のコタール教授、ソルボンヌの教授ブリショ、…

失われた時を求めて (71)

《ある日、私たちがグランドホテルの前の堤防上に集まっていた時、》 第8巻の最後の重要場面である。カンブルメール若公爵夫人(ルグランダン氏の妹)との初の交流が実現する。プルーストと居たのはアルベルチーヌ、アンドレ、ロズモンドで、やって来たのは…

失われた時を求めて (70)

前回の逗留と同じくフランソワーズが使用人として上階の部屋に泊まり、隣の部屋には母がいるという状況である。そしてアルベルチーヌがいつでもやって来てプルーストの欲望を満たしてくれるのである。だがアルベルチーヌに対する疑惑がだんだん現実のものと…

失われた時を求めて (69)

バルベックを再訪する。今度はロベールに教わったピュトビュス夫人の小間使いを追いかける旅行である。その小間使いは見たことがないような美人で、まるでジョルジョーネ作『眠れるビーナス』のような女だという。ピュトビュス夫人がカンブルメール邸に宿泊…

失われた時を求めて (68)

ヴェルデュラン夫人のサロン、スワン夫人であるオデットのサロンについて述べられる。スワン夫人のサロンは人気作家ベルゴットの存在で文学的な色彩を帯びたナショナリスト風のサロンと評価されている一方、一風変わった少数精鋭のヴェルデュラン夫人のサロ…

失われた時を求めて (67)

アルベルチーヌは来ているはずと思っていたプルーストは肩すかしを食わされる。帰るや否やプルーストの問いかけに対しフランソワーズは「どなたもいらしてませんけど」と言ったのだ。その言葉に動揺したプルーストはまたもや4ページくらいフランソワーズに関…

失われた時を求めて (66)

200ページを費やされたゲルマント大公夫妻主催の晩餐会の様子だが大邸宅の内部の描写がやっと出てくる。以下引用文。(吉川一義訳) 《私がゲルマント公爵夫人の館で晩餐をとった最初の夜、夫人がこの部屋について話してくれたことが原因なのかはわからない…

失われた時を求めて (65)

プルーストの文章の特徴を検討する。以下引用文。(吉川一義訳) 《文学の通人であれば、演劇界の大御所の新作を観るために劇場に出かけるときは、つまらぬ一夜になるはずはないという確信を顔にあらわし、座席案内係に持ち物を預けながら、すでに口元には洞…

失われた時を求めて (64)

さてプルーストはゲルマント大公夫人には声をかけられて何とか紹介儀礼を終えることができたが問題はゲルマント大公である。相変わらず喧しいシャルリュス氏を避けながら進んで行くとある婦人に声をかけられる。ところが誰なのか思い出そうとしても名前がう…

失われた時を求めて (63)

いよいよゲルマント大公妃の晩餐会に出席する。以下引用文。(吉川一義訳) 《私は、先に到着した数人の招待客の列の後ろに並んでいた。私の真向かいに見えた大公妃の美貌は、並みいる貴婦人たちのなかで、たしかにパーティーの唯一の想い出となるほど抜きん…

失われた時を求めて (62)

第八巻に入る。話は戻ってゲルマント夫人の帰宅を館の階段の物陰から見張っていた時プルーストが目撃したものは、シャルリュス氏と仕立て屋ジュピアンとのホモセクシュアルを思わせる仕草だった。この巻の主題であるソドムが姿を表して来た。プルーストは隣…

失われた時を求めて (61)

プルーストの上から目線が炸裂する。以下引用文。(吉川一義訳) 《とはいえ氏は社交人士よりも格段に優れていたから、社交人士とそのありさまを会話の材料にしてはいたが、だからといって社交人士から理解されてれいたわけではない。芸術家ぶってしゃべる氏…

失われた時を求めて (60)

晩餐会もようやくお開きとなりプルーストは馬車でシャルリュス邸へと向かう。毒気に当てられたような、大好物の中に放り込まれたような体験でプルーストの頭の中は変なものでいっぱいである。この後意外な結末が待っていた。 サロンに通されたものの三十五分…

失われた時を求めて (59)

ロベールとの夕食の翌日、プルーストはゲルマント邸に招かれる。侍従たちが驚く中、主人に案内されたプルーストは、まず念願だったエルスチールの絵の鑑賞をさせてもらう。そしていよいよ晩餐の席に案内されるのだが、急ぎ足で招待客に紹介されたプルースト…

失われた時を求めて (58)

霧の中ロベールとレストランに行くプルースト。店主にゴミクズのように扱われたプルーストはショックを受け、また長い評論が始まる。若い貴族について、ユダヤ人について、フランス人の上流と庶民について縷々述べられる。結論めいた章句が出現した。以下引…

失われた時を求めて (57)

バルベックのホテルでプルーストが一目惚れしたブルターニュの貴族ステルマリア嬢 –– 今はステルマリア夫人 –– の事を考えるとプルーストにとっては一時間くらいすぐ過ぎ去ってしまう。その夢想の一つを紹介する。以下引用文。(吉川一義訳) 《たとえ技巧を…

失われた時を求めて (56)

アルベルチーヌのせいでヴィルパリジ夫人邸には芝居が終わったころ到着する。さて第二サロンのソファーに座っていたプルーストに重大な転機が訪れる。ゲルマント夫人が通り過ぎようとしてプルーストに気づき、ソファーに腰掛けてこう言ったのである。以下引…

失われた時を求めて (55)

ロベールは結局ラシェルとの仲を母親の試みによって終わらされ、今はモロッコのタンジールにいる。ラシェルはロベールとプルーストの仲を割くために自分はプルーストに襲われそうになったなどと嘘を吹き込む。それにより一時友情は壊れたが今はなんとなく元…

失われた時を求めて (54)

第七巻に入る。ある秋の朝、プルーストの目の前には真っさらな人生が広がっていた。呪縛だったものが消え、自由に使える資産と、すでに知り合った女達と繰り広げられるであろう恋の予感、プルーストが感じていたものはまあこんなところだろう。 その日の夜ヴ…

失われた時を求めて(53)

祖母の具合が一段と悪くなってきた。おなじみの牛乳療法、その頃普及して来た水銀体温計、各種解熱剤について論評のようなのが続く。さらにコタール、ドクター・デュ・ブルボン、シャルコという錚々たるドクターについて論評する。何故かその論評の口調たる…

失われた時を求めて (52)

シャルリュス氏はプルーストのいくつかの質問に答えると辻馬車にとび乗り去って行った。彼の回答を示す。以下引用文。(吉川一義訳) アルジャンクール外交官について《「あのアルジャンクールは、生まれは良くても育ちが悪く、外交官としては平々凡々、夫と…