プルースト

失われた時を求めて (21)

幼少時に散歩に出かけたメゼグリースのほうとゲルマントのほうで受けた感銘はその後のプルーストの感受性に影を落としている。また母親が与えてくれるおやすみのキス、或いは与えてくれないとわかっている時の絶望感もまたプルーストの恋愛観に影を落とすこ…

失われた時を求めて (20)

プルーストが憧れて、いつも想像をたくましくしていたゲルマント公爵夫人に会えたのはドクター・ペルスピエのお嬢さんの結婚式の時だった。教会でのミサに出席したプルーストはゲルマント公爵夫人の姿をとうとう見たのであった。現実の姿を目の当たりにして…

失われた時を求めて (19)

ゲルマントのほうへの散歩は少々大変で、雲一つない天気でないと心配だった。それでも出かけて広大な牧草地と塔の跡を見ると、中世の諸侯達の戦いの情景が浮かんでくるのだった。ヴィヴォンヌ川を辿って行くと睡蓮の花園に至る。そこはお屋敷の一部で水に浮…

失われた時を求めて (18)

ある秋の日(資料によるとプルースト15歳の時)、あの気難しいレオニ叔母もとうとう亡くなった。フランソワーズが付きっきりで看取ったという。相続のため両親とプルーストはコンブレーを訪れたが、両親は公証人と小作人との面談で忙殺され、大規模な追悼の…

失われた時を求めて (17)

ヴァントイユ氏の周辺にも暗雲が垂れこめる。活発な娘にいかがわしい女友達がくっつく様になり、ヴァントイユ邸に住むようになったのである。心優しいヴァントイユ氏はそれでも二人のことを悪く言わないのであった。村では噂で持ちきりとなりこのように言う…

失われた時を求めて (16)

幼いプルーストのこの心根は大したものである。以下引用文。(吉川一義訳) 《そして涙をぬぐいながら、私はサンザシに約束していた。大きくなったら、ほかの大人の非常識な生活をまねるようなことはせず、たとえパリにいても、春がめぐってきたら、人を訪問…

失われた時を求めて (15)

いよいよ祖父、父、プルーストで「スワン家の方へ」散歩に出かける。たまたまスワンの妻と娘がパリに行っており出くわす心配がないからである。祖父と父は道で出くわして知り合いになる事と、庭を覗いていると思われる事をとても慎重に避けているのである。…

失われた時を求めて (14)

家政婦フランソワーズの裏の顔が描かれる。若鶏を締める時の怒りに満ちた言葉や、台所番女中のお産の時に吐いた暴言はプルーストを少なからずビビらせたようだ。 次にルグランダンを観察した結果ある疑念を抱くようになる。申し分のないエリート紳士どころか…

失われた時を求めて (13)

引き続きレオニ叔母の単調な生活が語られる。日曜日の礼拝の後訪れるユーラリに手渡すお小遣いの事、それに対するフランソワーズの反応、司祭の訪問、ステンドグラスの由来についての話、などが語られる。特にいいなと思ったのは土曜日の昼食に出てくる、《…

失われた時を求めて (12)

このような文章でお気に入りの作家ベルゴットの事が語られる。以下引用文。(吉川一義訳) 《ベルゴットのことをはじめて聞いたのは、年上の仲間のひとりで、私が大いに称賛していたブロックからであった。》 《J’avais entendu parler de Bergotte pour la …

失われた時を求めて (11)

読書の理想が描写されていた。こんな読書がやってみたかった。以下引用文。(吉川一義訳) 《じっと腰かけたまま、空気のいい匂いを嗅ぎ、だれにも煩わされない楽しみである。サン=チレールの鐘塔で時を告げる鐘が鳴ると、ひとつ、またひとつと、午後のすで…

失われた時を求めて (10)

台所番女中(フランソワーズがいない間派遣される)の姿がジョット作「慈愛」に似ているという話が出て来る。そもそもそう評したのは美術好きのスワンだがこの複製画がプルーストの勉強部屋に貼ってあるのである。プルーストは他の絵の印象も交えてあれこれ…

失われた時を求めて (9)

日曜の午後の昼食のあとプルーストはアドルフ大叔父の事を回想する。プルーストは月に二回アドルフ大叔父の元を訪ねるという役を担っていた。その頃のプルーストは芝居に夢中でオペラ・コミック座、コメディ・フランセーズの出し物の広告を見るためにモリス…

失われた時を求めて (8)

ユーラリという老婆の話が出て来る。耳が遠く、足が不自由で、わずかな年金で教会の脇の部屋で暮らしている。これがレオニ叔母のお気に入りであった。実に口が上手く、レオニ叔母のやや取りつく島の無い、頑なな心を満足させるからである。例えばこのように…

失われた時を求めて (7)

パリ在住のルグランダン氏はコンブレーの屋敷に週末になるとやって来る紳士である。理系の成功したエンジニアであり文学芸術にも深い知識を持っている。その容貌と人となりをプルーストはこう表現している。以下引用文。 (吉川一義訳) 《背が高く、スタイ…

失われた時を求めて (6)

最近はビゼーを聴くことが多い。プルーストはビゼーの息子と同級生で知り合いである。テラークのビゼーとグリークが入った盤は音響効果抜群である。20cmバックロードと100W級のパワーアンプを使って再生すると100Wの意味がわかる。 さてコンブレーに滞在中プ…

失われた時を求めて (5)

やはりこの小説は表現力といい、作者の徹底した生き方といい、凡百の小説から抜きん出たものがあると言える。時代背景にも稀有なものがある。 家政婦のフランソワーズについて語られる。プルーストによるとフランソワーズはこんな人である。本文から一部引用…

失われた時を求めて (4)

いよいよ有名なマドレーヌの話のところまで来た。本文を一部引用する。(吉川一義訳) 《(略)ある冬の日、帰宅した私が凍えているのを見た母が、私の習慣に反して紅茶を少し飲んでみてはと勧めてくれた。最初は断ってみたものの、なぜか思い直して飲んでみ…

失われた時を求めて (3)

幼いプルーストは母に袖にされている。本文を一部引用する。(吉川一義訳) 《母はやって来なかった。おまけに私の自尊心への配慮もなく、フランソワーズの口から私に「返事はありません」と言わせたのである。この言葉を、私はその後、「豪華ホテル」の守衛…

失われた時を求めて (2)

この小説はマルセル・プルーストが幼少の頃から体験した鮮明な記憶を一部設定を変えて小説にしたものであると言う。一生働かずとも食べていける財産を持ち、体は虚弱だったが、文化が咲き誇り、何でも有る都市パリでの上流階級の暮らしが書かれているのだ。…

プルースト 失われた時を求めて (1908〜1922)(1)

「いよいよプルーストの小説全14冊を読む時期が到来した。」と閃いたのは僕が図書館で書棚の下の方を見た時である。こんな事が出来る人生はいい人生である。 冒頭の「眠ろうとして目を閉じた後の想念」についての長々とした記述は主に過去における自分の寝室…