岩波文庫 存在と時間 (3)

方法論としての現象学を調べて行くとフッサールの主張は対象への接近度と観察者の直観を重視しているように見受けられる。データを取る対象を近代的視点から記述して行くと確かに失われれてしまうものが多くなる。人類学研究の理想は部族の一員になりきって…

岩波文庫 存在と時間 (1927)

この表題からは科学論文みたいに2ページくらいにならないのかという疑問が湧いてくる。哲学は自然科学ではないのだろうか。今の私には考える時間は青天井くらいに存在する。まだ読む前だが、ハイデガーの主張は結局ソクラテスのメノンに戻るだけだったらがっ…

岩波新書 モゴール族探検記 (2)

本文から少し紹介する。 《アブドル・ラーマン老人の二番目の息子が、ダバーという黒い汚いツボのようなものをもって来てくれた。これは、この村でつくるという。材料は、ブテ・イ・シリシとう一種の植物である。その根を乾かし、水車でひく。それを布でこし…

岩波新書 モゴール族探検記 (1956)

京都大学探検隊による1955年の記録である。著者の梅棹忠夫はこう書いている。 《わたしは、キャンプ地をさがすために、村の中を巡視する。まあ、なんというひどいところに住んでいるものだろう。どっちを見ても、赤茶けた岩山ばっかり。これは、世界の果てだ…

晩年の時間つぶし (14)

今週もまた同じように本と模型とスコアで時間の針を進め、週末は息抜きをする。映画も一本観る。 モゴール族探検記を二週間くらいかけて読む。著者はカンダハルからカブールに移動し仲間を待っているところである。 プラカラーの白とツヤあり黒を追加し、マ…

岩波文庫 シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (2)

このような記述がある。 《二 シュルレアリスムにのめりこむ精神は、自分の幼年時代の最良の部分を、昂揚とともにふたたび生きる。それはなにか精神にとって、いましも溺死しようとしているときに、自分の生涯のすべてを、またたくまに思いおこしてしまうひ…

岩波文庫 シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (1924)

とうとうここにぶち当たってしまった。若い頃当然読んではいたし、当時世間でもエピステーメー、蓮實重彦、冷し中華思想などで賑わっていた。蓮實氏の御子息は作曲家である。僕もシュールレアリスム風の絵を描いたり、作詞もしていたが長い間社会に揉まれて…

岩波文庫 ユートピア (1516)

天下国家を論じ、国のために官僚を志す若者なら『塩鉄論』と『ユートピア』くらいは読んでおくべきだろう。ただし『ユートピア』の方は皮肉が効いているので、読むと志望先が変わるかもしれない。 浮浪者然としたラファエル・ヒロスデイはこう語った。 《モ…

岩波文庫 トゥバ紀行 (2)

かなりローカルで稀少な歴史が綴られているのでここに記しておこう。(P159) 《アルタイの牧人と狩人は、ロシアの植民者によって絶え間なく、やせて不毛な土地へと追いやられた。一九〇〇年ごろ、シナで大衆が魔術にたけた義和団のまわりに結集したとき、同…

岩波文庫 エトルリヤの壺 (1830)

パリ生まれのエリート官吏で作家の、メリメによる短編集である。小説『カルメン』の作者である事はそれ程知られていないような気がする。本書は彼の異国趣味が前面に出ているような作品集で、中でも『タマンゴ』はそのまま映画になりそうな出来栄えである。…

岩波文庫 トゥバ紀行 (1931)

著者のオットー・メンヒェン=ヘルフェンはウィーン生まれの民俗学者で1929年にトゥバ入りし、調査活動に励んでこの書をものにした。とても理知的な人物でその文章からそれが窺われる。 《トゥバ人はいかなる肥料も用いない。降水量はわずかだし、犂はあまり…

岩波文庫 君主論 (2)

ゆっくり読んでいると面白い。このような記述がある(p75)。 《その上さらに、民衆を敵にまわしたならば、その数があまりにも多いために君主は身の安全を保ち得ないが、有力者たちならば、数は少ないから身の安全は保ち得る。民衆を敵にまわすことによって…

岩波文庫 君主論 マキアヴェッリ著(1532)

この書は序文にあるように、君主(メディチ家)に対する阿諛甘言を排したストレートな論文集であり、フィルドゥスィーの『王書』のようなものとは異なっている。非常に明快な文章なので少し紹介する。 《それゆえ言っておくがこの場合の政体、すなわち獲得の…

デカルトの幾何学

せっかく読んだので少し内容を紹介する。冒頭部分では線分と円を用いて四則演算ができる事を示している。 乗算 DB x BC を作図する。AB=1 であるとする。 求める積はBEとなる。線分ACと線分DEは平行になるよう作図する。 平方根 AB=1 としてBCの平方根を求…

岩波文庫 死に至る病 (1849)

デンマークの実存主義哲学者キルケゴールの著作である。少し引用するとよくわかるが、死と絶望の語句をもてあそんでいるように見える。(p32) 《さてこの究極の意味において絶望は死に至る病である。ーー自己のうちなるこの病によって我々は永遠に死ななけ…

岩波文庫 アンティゴネ (前5世紀)

オイディプスの死後、戦争が始まって二人の息子が相討ちになって死んだ。新しく王になったのはあのクレオンである。物語の発端はクレオンの出した命令である。攻めてきた方の息子のポリュネイケスの死体を埋葬せずに道端に放置し、これを埋葬したものは死刑…

岩波文庫 コロノスのオイディプス (前五世紀)

コロノスとはアテネ郊外の森に隣接した地で、アテネ王テセウスの統治下にある。自ら盲目になりテーバイから追放されたオイディプス王は娘のアンティゴネに手を引かれて放浪の旅に出るが、最後の地コロノスの森にやってきた。このような会話がある。 《オイデ…

岩波文庫 オイディプス王 (紀元前5世紀)

この劇の完全復元上演の試みは海外ではあるようだが映像媒体で入手できるものは無いようだ。岩波文庫のテキストからひたすら想像してゆくしかないだろう。 この劇は始まる前のストーリーが長くてアポロンの神託やスフィンクスの場面は飛ばしていきなり疫病と…

岩波文庫 メノン プラトン著 (BC5世紀)

近隣の都市から来た青年貴族のメノンに対して行ったソクラテスの講義のようなもので、これが哲学だと言えるものだ。 メノンの質問とは、 「徳とは教育によって教え得るものか?」 というものであった。ソクラテスはそもそも「徳」について誰も知らないと言う…

岩波文庫 地獄の季節 ランボオ 小林 秀雄訳

全体的には難解で作者が何者だか解らない感じである。地獄の使者?死刑囚?わりとわかりやすかったところを一部紹介する。 《『お利口な方々』はキリストと一緒に生まれなすった。それというのも俺たちが霧でも耕しているからではないのか。俺たちは俺たちの…

シルクロード第2部(7)バクダッドの彼方へ

最近はシルクロード、刑事コロンボ、シャーロックホームズの冒険と再放送が続いているのでうれしい。今回のシルクロード第2部(7)ではマルコポーロの旅程を辿っており、チグリス・ユーフラテス川下流の湿原マーシュランドを取材している。泥と葦で作った水…

フォークナー短編集 (18)

読了した。さて少年の目から見た事件のあらましを読者は知る事ができたのだが、事実関係についてはほぼこの通りだろう。 地主宅の納屋に放火したのは少年の父親のアブナー氏であり、オイルを用意して現場に向かったのを少年と家族が目撃している。動機はわり…

フォークナー 短編集 (17)

短編集最後の「納屋は燃える」まで来た。実に遅い読書だが何か書くためにはこのくらいの速度になってしまうのだ。さてフォークナーの小説にはドラマとして再現可能な部分とそうでない心理描写のような部分が混在している。 主人公の少年が町を追われて一家で…

フォークナー短編集 (16)

決闘が終わった後のサートリス家の様子が描かれる。牧場周辺の自然や、鳥の鳴き声のような描写がふんだんに出てくる。牧場の奥まったところにある低地の木陰で夜まで休息したベイアードとリンゴーはひっそりと静まり返った家に戻ると叔母のジェニーが待って…

フォークナー短編集 (15)

当日の朝となった。ベイアードはジェニー叔母さんの最後の懇願も聞かず、何とか助勢しようとするワイアットらの申し出も断り、ものすごい精神状態で弁護士B.J.レッドモンドの古びた事務所に乗り込んでいった。 結果は、書くとこれから読む人に申し訳ないの…

フォークナー短編集 (14)

さていよいよベイアードはジェファーソンにある実家にたどり着いた。 《私は馬からおりた。だれかがその馬をよそへひっぱっていった。私は彼女のところに近づいていった。だが、そのときの私の気持ちは、まるで私自身はまだ馬の背にまたがっていて、彼女がつ…

フォークナー短編集 (13)

このような場面だが会話にいやにリアリティーがある。 《すると彼女が口を開いた。「ベイアード、あたしに接吻してちょうだい」 「だめだよ。あなたはおやじの奥さんじゃないか」 「それに、あなたより八つも年上だし、それから、あなたの遠縁の従姉だわね。…

フォークナー短編集 (12)

事件といっても牧場で父が撃たれたという出来事である。撃った人物はわかっている。父とは「八月の光」でも出てきたあのサートリス大佐である。その瞬間からこの私はサートリス家の当主となり、仇討ちの為の決闘が待っているのだった。家までの40マイルの道…

フォークナー短編集 (11)

「バーベナの匂い」である。今度はすんなりと頭に入ってくる。文章が明晰そのものだからだろう。フォークナーにしては珍しく、人を小バカにしたような表現に出くわした。 《「なにか、わしにできることでもあったら」 「先生、ぼくの下男に新しい元気な馬を…

フォークナー短編集 (10)

残りの数ページを読んでみたら、思った以上の酷たらしい結末だった。サトペン大佐の態度にキレたワッシがサトペン大佐を殺す。この後のことに思いを巡らせたワッシは逃げることもままならぬと思い、全部終わらせる壊滅的行動をとる。その時の彼の思考を精読…