映画 ミルク (2008)

  余白の多い映画だ。その分たっぷりとトルコの風景を楽しむことができる。ヘビの燻り出しの場面がある。よくわからない。しかし吊るされているのが母親のゼーラであること、煮立ったミルクに護符を入れていたことより推測はつく。しばらくして男女が登場する。車から降りて休憩している。男はタバコを女は携帯を持ち誰かと話している。友人の彼女なのだろう。場所は東ローマ帝国時代の遺跡のようでもある。男と母親が夕食をとりながら会話する。トルコは車社会のようだ。明け方サイドカーをつけたバイクが走る。朝の市場に到着した。男と母親が商品を5リラで売っている。男は市場を見て歩きナイフを買う。畑でざくろを取り美味しそうに食べて昼寝をする。彼がユスフだった。卵の時より10くらい若くまだヒゲは無い。実家で母と暮らし酪農と畑をやり詩を書いている。母 が小言を言う。
 
   ユスフは中年男とビールを飲み黙って座っている。夢という雑誌に原稿を送ったという。たくさん飲んでよろける中年男をアパートまで送る。詩人のハイダルさんか。母はサイドカーのタイヤに空気を入れてもらい町から帰ってくる。ユスフの文学青年ぶりにイラつきを隠せない。トルコの田園風景。畑が続く丘陵地帯だ。遠くに雲を頂いた山並みが見える。一本だけある大樹の木陰に座りユスフは休憩をとる。老人も一緒だ。老人の家でミルクに紙片を入れる儀式をする。 

   郵便が届くがユスフの詩の掲載誌だった。彼女のことを詩にしたらしい。母親が先に読んで面白そうにユスフを問い詰める。ユスフは搾った牛乳の行商に行く。団地妻が買ってくれる。土地造成の現場にも牛乳を届ける。現場で働く友人も詩を書いている。ユスフは励まそうとするが友人の心は沈んでいる。掲載誌を見せて彼にプレゼントした。
   母親の恋の相手は駅長らしい。ダンディで裕福、小さい娘がいる。

   ユスフはイズミルで徴兵検査を受ける。持病があるようだ。脳波の検査を受け持参した診断書も見せる。イズミルの書店で詩の雑誌を買いに来たアイラに話しかける。二人は初対面のようだ。文学好き同士がデートの約束をする。夕日に輝くエーゲ海の入江の風景が美しい。
この映画自体が文芸作品だ。翌日検査の結果を受け取る。家に帰ってみるとレンジにチャイのポットがかかっていた。チャイの入れ方でいた客が男か女かわかるのか。ユスフは一々チェックして男に出くわさぬよう気を使っている。ご馳走を用意して息子を迎える母。ユスフは夜まで外に居た。

   翌朝牛乳配達に行くと次々と断られる。配達をさぼった母親のせいだ。母親が駅長の高級車に乗りどこかへ走り去る。追うユスフ。逢瀬の現場を見たユスフは興奮したのか運転中にてんかん発作を起こし投げ出される。幸いケガは軽かったようだ。ユスフは夜の街をさまよい石を投げて電球を割る。朝バイクを押して家に帰るユスフ。また外でタバコを吸っている。すると朝帰りの駅長の車が母を乗せて帰ってくる。ユスフは駅長の車を追いかけ池のほとりに出る。駅長は鳥を撃ちに水辺の草むらに入って行く。ユスフは石で駅長を殺そうとしたが足元にいる巨大鯰を捕まえる方を選んだ。

   夜の建設現場。ヘルメットをかぶった労働者が行き交う。その中に虚ろな目をしたユスフが居た。徴兵の代わりに強制労働がある。