村上春樹 羊をめぐる冒険 (1982)

     ほぼ読了した。第1章の「水曜の午後のピクニック」は早稲田色満載の独立した短編だと思う。第2章からが本編で主人公の離婚から始まる30才になる男の喪失感がテーマのようだ。若い頃の感受性は希薄化し現実が現実感を失う瞬間がよく出てくる。黒い巨大権力による恫喝が発端となり耳だけ美人の恋人と北海道の辺境まで婚前旅行するという設定である。使い切れない程の札束を有する気ままな二人旅と云うのは著者の実人生に重なる物がある。子を持つ人生への批判も何か気になる。ローカル線を乗り継いでたどり着いた地は夏の放牧に適した山の中の草原だが立派な建物があった。これが羊博士、後に鼠の父親の所有となる別荘ということだ。冬の間下界から閉ざされる人外境だが冬ごもり出来る設備が整っている。部屋にはオーディオセットと200枚ばかりのジャズのレコード、造り付けの本棚、書き物のできるデスク、酒とコーヒー、パンを焼く設備がある。村上春樹の理想の山小屋だろうか。しかしここに一冬一人で篭るのは全然楽しくないだろうなと思った。 彼女は帰ってしまったし鼠とは再会できたが幽霊だったというオチだ。最後のサスペンス風の展開は映画にしたら面白そうだと思った。