埴谷雄高 死霊 その4

    墓地へ向かう自動車の中で首猛夫が夫人に解説する。与志が取り憑かれているのは取るに足らぬ玩具だが、その玩具が一度悪魔になると若者にとってはそこから抜け出る事は難しい。抜け出るにはさらに大きな悪魔が必要になると云う。今度は悪魔について解説を始める。元々中世の暗黒時代に跳梁していた数々の悪魔はだんだん昼にも現れるようになった。昼間の悪魔、質問の悪魔のことを嬉々として解説する。そしてこれから向かう墓地の入り口には質問の悪魔が待っているのだという。さらに睨みの悪魔もいるらしい。だが睨みの悪魔は鏡を見て死んでしまったというオチだ。津田夫人は話を聴いているうちにだんだん快活になってくる。墓地に着く手前で首猛夫は明後日に又会いましょうと言って車を降りていった。

    三輪家の墓地に着くと参列者はごく僅かだった。津田老人がまず祖母の事についてジョークのような事を言い場を和ませる。続いて今の若者たちに苦言を呈し臨死体験のような事も話す。二人の貧相な男の背の低い方が津田老人に向かって話し出す。あるボクサーの体験した臨死体験の話だったが尻切れとんぼのように終わる。与志と安壽子が遅れて到着した。待ってましたとばかり津田夫人が畳み掛けるが二人はわざと遠回りの電車に乗ったとか幽霊の話をしたとか言い始める。ここにいる人は皆実存モードのようだが津田夫人だけは日常モードのようだ。津田夫人は安壽子達を叱責して皆は解散した。