埴谷雄高 死霊 その6

    首猛夫は自己の妄想をギリギリまで絞り出してとうとう死の社会学という概念を得る。これと黒田健吉の無限大の逸脱、三輪与志の虚軆、それに矢場徹悟の考えている何かを合わせれば大思想というべきものになるのではないかと首猛夫は眼を輝かせながら思った。

    矢場の失踪後の消息は不明だがある印刷工場の地下室で働いていたのだという。黒田はこれからその印刷工場の李奉洋という人物に会いに行く事になっている。霧に沈む夕暮れの運河地帯を抜けて二人が歩いて行くとねんねという少女とすれ違った。彼女はこの辺りに住んでいて淫売婦をやっているという。ただしお金だけとって逃げて行くのが常である。もしトラブルになると筒袖の拳坊という男が現れて相手をぶっ飛ばすのである。xx橋の所にくると明日瘋癲病院で会うことにして二人はそこで別れた。(終)