東洋文庫 今古奇観 (1640年頃)

  編者は蘇州の抱甕老人とされるが詳細は不明。「三言二拍」という長大な説話本から物語四十編を選りぬいた本である。明の時代に成立し清の時代には民衆に広く愛読された。

第一話 三孝廉
  漢の時代の三兄弟の出世話である。許武は両親を亡くし二人の幼い弟の面倒をみながら生計を立てねばならなくなる。昼は耕作夜は勉学に励み弟達を常にそばに置いて教育しそれがだんだんと評判になる。ついに郡の長官が朝廷に推薦し許武は長安で仕官することになる。許武は評判どうりの働きをし出世するが願い出て故郷に帰る。弟達はよく働き倹約し耕地を増やしていたがこのままでは出世出来そうにないと許武は考えた。

  許武の考えた策略はこうである。村人をもてなしその席で弟達には最低限の耕地と小作人を与え残りを自分が独占する事を宣言する。弟達は何も不満を抱かぬ素振りだがむしろ村人が憤りを感じたようだ。許武の評判が地に落ちた代わりに弟達に孝廉の評判が立つ。遂には弟達も推薦されて中央に仕官し最後は地方の長官の位に付く。

  ここに来て許武は自分の策略を涙を流しながら皆に明かすのである。村人達は感動し兄弟は三孝廉と称されるようになった。

感想
  出世する気満々の許武、兄に頭の上がらない弟達という構図である。これを美談とする社会はとても息苦しい。

  第二話は数奇な運命をたどった地方長官の娘の話でこれも忠孝義の要素を含む美談であるが詳細は略す。

  第三話から第四十話までも略す。