東洋文庫 世説新語 1 (450年頃)

中国六朝時代(呉・東晋・宋・斉・梁・陳)の宋の時に劉義慶が編纂した著名人の逸話集である。全5巻のうち巻1には徳行、言語、政事の3つの項目が収録されている。訳文を少し紹介しておく。

言語第二(70)

王羲之は謝安と一緒に治城に登った。謝安はゆったりとしてはるかに思いをはせ、世俗を超越した心境であった。王羲之は謝安に告げて言った。

「夏の禹は王事につとめて、手足に胼胝ができ、周の文王は日が暮れてから食事をし、日数も足りないありさまだった。今、四方の郊外に塁(とりで)が多く、人それぞれに力を尽くすべきである。にもかかわらず、空疎な議論にふけって仕事をかえりみず、軽薄な学問にうつつをぬかして要務をさまたげているのは、当今の時宜にかなったことではなかろう。」

謝安は答えた。 「秦は商鞅を任用して二代で滅亡した。清談が禍など招くものか。」