東洋文庫 元曲五種 (14世紀頃)

楊氏の女 狗を殺し夫を勧(いさ)むる雑劇

南京の裏通りに代々住む孫大というお金持ちがいた。妻は楊氏と云い弟は孫二と云った。ところがこの兄は柳隆卿、胡子転という取り巻きの言葉を信じ弟を家から追い出し、弟は城南の壊れた窯に住んでいた。今日は孫大の誕生日。酒席を設け柳と胡を家に呼び大いに楽しんでいた。そこへ呼ばれてない孫二がやって来た。孫二が挨拶しようとすると手ぶらでやって来た事に激怒した孫大は孫二を打ち据える。墓参りの時も同じ様な事があり激怒した孫大は孫二を打ち据える。

ある雪の日に孫大と柳、胡が街で飲んで、さあ帰ろうという時である。飲みすぎた孫大が道で眠ってしまう。柳と胡は面倒に巻き込まれることを恐れ孫大を置いて帰ってしまった。其処へ通りかかった孫二は兄を見て家まで背負って帰る。目を覚ました孫大は弟が家に上がり込んで居るのを見て激怒して打ち据える。弟は事情を話すが孫大は柳、胡の言い分を信じ弟を又打ち据えるのである。

柳と胡は言葉巧みに孫大に取り入って義兄弟の契りを交わし、いい思いをして居るが元は悪者である。そこで孫二の事を憐れに思った楊氏が一計を案ずる。狗を一匹調達した楊氏は狗の首と尾を切り取り、衣服を着せて家の裏門に置いておいた。そこへ帰って来た孫大は人が死んでいると思い仰天する。死体を運ばなければ自分が罪を着せられると思った孫大はまず柳の所へ行く。柳は話を聞くと奥へ引っ込んでしまった。次に胡の所へ行くとこれも話を聞き奥へ引っ込んでしまった。楊氏はそれでは孫二に頼みましょうと行って嫌がる孫大を連れて行った。孫二は兄の頼みならと狗の死体を河の堤防に運んで埋める。

さあ今度は柳と胡が騒ぎ出した。人を殺したのを黙っていて欲しければ3千両よこせ、さもなくば役所に訴え出るという。弟は私がやった事と言い出頭する。取り調べが始まりそれぞれの言い分を述べる。そこで楊氏が事の真相を申し出て堤防を調べさせると言った通り狗が出て来たのである。役所の長官はこれを見て柳と胡を罰し、孫大の罪を楊氏に免じて赦し、孫二を県令に任命したという。

面白い。他に4編が収録されている。