1997年の配給収入二位で23億である。ヒット作といえるだろう。
渡辺淳一独特のストレートに真実を追求するという話なので偽善もシュガーコーティングも入り込む余地は無いが一ヶ所だけ作為がある。
さてこれから心中する九木(役所広司)は出版社の編集者だが今は閑職に追いやられている。一戸建ての家にはボルボと美しい妻がいて娘は女医でもう結婚している。齢50にしてこれであれば相当恵まれている。相手の凛子(黒木瞳)は30代で、医者の夫がいるが仲は冷え切っている。子供は居らず書道の先生をしている。カルチャーセンターで二人は知り合う事になる。その後はシティーホテル、温泉、夜の街とデートを繰り返し都内のマンションを借りる所まで行く。当然妻には感付かれるし凛子の夫も興信所を使い二人の行状を調べ上げた。
ここまで来ると二人は有責なので慰謝料の発生は免れないだろうが弁護士を立てて無事離婚まで行ける案件である。獄門になってしまう江戸時代ではあるまいし心中という選択をする動機はやや薄い訳である。だからわざと義父の通夜の日に密会させてその為に地獄に落ちるという設定が必要だったのである。
若干サラリーマンの悲哀も描かれているが渡辺淳一はサラリーマン万歳でもサラリーマン蔑視でも無く淡々とまるで医学論文の様に書かれているので、ある意味可笑しいところがある。