東晋の干宝が著した志怪小説集。20巻が現存する。東洋文庫には全20巻464話が口語和文で収録されている。どんな内容なのかいくつか抜き出してみる。
第1巻17 ふしぎな鴨
漢の明帝のころ、河東(山西省)出身の尚書郎王喬が鄴県の知事となった。この人は神術を心得ており、毎月朔日にはいつも県城を出て参内するのを習慣としていた。ところが、参内はたびかさなるのに、車も馬も見かけないので 明帝は不思議に思い、太史に秘密の命令をくだして喬の様子を眺めさせた。すると太史の報告では、王喬が内裏に到着するとき きまって一番(つがい)の鴨が東南方から飛んでくるという。そこで待ちぶせの手はずをととのえ、鴨が現れた時に網でつかまえたところ、網の中には靴の片方だけしかなかった。尚書省に送ってしらべさせると、それは四年前、尚書省の役人に下賜されたはきものであった。
原文
漢明帝時 尚書郎河東王喬 為鄴令 喬有神術 每月朔望 嘗自縣詣台 帝怪其來數而不見車騎 密令太史候望之 言其臨至時 輒有雙鳧 從東南飛來 因伏伺見鳧 舉羅張之 但得一雙舄 使尚書識視 四年中所賜尚書官屬履也
第2巻 45 死んだ妻をたずねた話
漢のころ、北海郡の営陵県(山東省)に一人の道士があり、人間を死んだ人と会わせる術を使った。妻を亡くしてから数年になる同郡の人が、その評判を聞き、たずねて行って、 「死んだ家内にひと目会わせてください。それができたら、死んでも思い残すことはありません」 と言うと、道士は、 「会いに行きなさるがよい。ただ暁を告げる太鼓の音が聞こえたら、すぐ外へ出なされよ。ぐずぐずしていてはなりませんぞ」 と、死んだ妻に会う術を教えてくれた。
すぐそのとおりにすると、妻に会うことができた。そこで妻と話し合ったが、悲しみと喜びのうちに、生きていたときと変わらぬ愛情をかわしあったのである。 やがて太鼓の音が聞こえた。夫は後ろ髪を引かれる思いであったが、止まるわけにはゆかず、戸口を出ようとするとき、ふと着物の裾が扉にはさまれた。そこで振りちぎって帰った。
それから一年あまりたってこの人が亡くなり、家族の者が埋葬しようとして墓を開いたところ、妻の棺に夫の着物の裾がはさまっていた。
原文
漢北海營陵有人 能令人與已死人相見 其同郡人 婦死已數年 曰 願令我一見亡婦 死不恨矣 道人曰 卿可往見之 若聞鼓聲 即出勿留 乃語其相見之術 俄而得見之 於是與婦言語 悲喜恩情如生 良久聞鼓聲恨恨 不能得往 當出戸時 忽掩其衣裾戸間 掣絶而去 至後歳餘 此人身亡 家葬之 開冢 見婦棺蓋下有衣裾
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