列島ぐるりヨットの旅 笹岡耕平著 (1995)

招福は36フィートのスループ&カッターリグで設計者は林賢之輔、船体はFRP製でヤンマー3GMー30エンジンとキャビンを有しさらにウィンドウベーン(エアリス)GPS(コーデン)を装備している。これで世界一周や日本一周をするのである。実にロマンを感じる所為であるが本書を読むとその実態はまるで苦行のようでもある。

著者は世界一周で有名なので経歴は略すがこの船旅の当時は50歳くらいで腰痛と十二指腸潰瘍持ちである事が書かれている。まず大阪を出港して1ヶ月と13日、沖縄・薩南諸島まで行って帰ってくる。本書は三つのトライアルの記録からなっていて合わせると日本一周がイメージ出来るという。知人が加わったり抜けたりするので完全なシングルハンドでは無い。停泊場所は漁港かマリーナしかないので予め調べておき良港かどうか確かめながら停泊する。波のうねりやアンカーのかかり具合、干満の差に非常に神経を使うので停めて気軽に町を散策出来るとは限らないし船内で安眠できないことも多い。著者は立ち寄った町の繁栄度や人の数を観察する。特に離島の衰退ぶりには心を痛めているようだ。

航路は瀬戸内海、関門海峡玄界灘壱岐、長崎、硫黄島、喜界島、奄美、沖縄、奄美トカラ列島、土佐清水、大阪である。糸満ではリタイアした人が秋から春までヨットで過ごし半年楽しんだあと長崎に帰って行くのを見てああいう生活が羨ましいと書いている。本旅の航行距離は1723マイル、軽油140L、清水160Lを消費した。

この他二つのトライアルが収録されている。本州、北海道反時計回りトライアルではこのような言葉を残している。

「元気な時代は短くて、二度と若返らない人生、そんなに働いて悔いなく死ねるの?」 「そんなに稼がなくても君は十二分に金持ちだよ。君がそれに気付かないだけだよ。」 「豊かさを実感するのは預金高では無い。人生を楽しむ気持ちの余裕の有無だよ。」と言ってやりたい。