東洋文庫 鸚鵡七十話 印度風流譚 (7〜12世紀)

ハラダッタの息子マダナセーラとクヌダーコーシャの美しい娘プラヴァーヴァーティーが夫婦になり愛欲の限りを尽くしていた。周りが見兼ねて忠告するとマダナセーラは商売をするため旅立つことにした。残されたプラヴァーヴァーティーの悲しみを癒すように鸚鵡と鴛鴦のつがいが残された。これから毎晩一話ずつ70日間鳥がプラヴァーヴァーティーにお話をして聞かせるのである。

すると早速この国の王子が現れてプラヴァーヴァーティーを見初める。使いの女の巧みな甘言にそそのかされたプラヴァーヴァーティーがおめかしして外出しようとすると鸚鵡が語りかける。

第1話 ある町でのこと、商人の妻グナシャーリニーがヴァスダッタの息子に見初められ周旋女を送り込む。周旋女はグナシャーリニーと昵懇の仲になり何でも言うことを聞いてくれる事を約束させる。男と逢引しなくてはいけなくなったグナシャーリニーは悩んだ末、混雑した寺院の前を待ち合わせ場所にした。周旋女は顔がよく似ていて見分けがつかなかった男の手を引いて会わせたところ男はグナシャーリニーの夫であった。グナシャーリニーは女を買おうとした夫をなじった上で不義の罪を犯す事も逃れることが出来たのである。さてプラヴァーヴァーティーよ、貴方もこの様に振る舞えるならどうぞお出かけなさいと鸚鵡は言ったのである。

第2話 ある町でのこと、若い王妃シャシプラダーがナンダナという商人に見初められた。恋の悩みでやせ細ったナンダナを見て母のヤショーダーが問いただした。事情を知ったヤショーダーは修行者の姿になりお供と牝犬を連れてシャシプラバー家の門のところへ行き自分は巡礼中だが疲れてしまいここで野宿したいと門番に告げる。そしてそこで毎日牛糞塗り、礼拝、焼香などを牝犬に対しておこなうのである。これを見たシャシプラバーが訳を聞くとヤショーダーはこう言った。「私と牝犬と貴方は元は同じ胎の姉妹で、ある商人の家で暮らしていたが恋に悩む男には体を与えた私はこの様に前世の記憶を持つ尼僧となり、貞節を守った妹は施しをしなかった罪過により犬に生まれ変わりました。貞節を守った貴方は幸い今の様な幸せな境遇を得ておりますが流転する世の中を乗り切って行こうという望みがおありでしたら恋に悩む男と寝ることによって前世を知るという特別な知識を得ることができるでしょう。」するとシャシプラバーは平伏して女の言うことに従ったのである。さてプラヴァーヴァーティーよ、貴方もこの様な詭計をもって事態を変えられるならどうぞお出かけなさいと鸚鵡は言ったのである。

このように第70話まで鸚鵡が話し続けると王子がやって来た。王子の猫は鸚鵡を殺そうと狙っている。鸚鵡がこう言うと王子は退散して行った。「猫さん、お前はなぜ鳴くの。敵でも泥棒でもないのにさ。この方はナンダ王の御皇子で、よその女の乳兄弟。」