東洋文庫 ゾロアスター教論考 (エミール・バンヴェニスト1926、ゲラルド・ニョリ1985)

本書はコレージュ・ド・フランスでの二つの講義録の日本語訳である。

第一部 『主要なギリシャ語文献に見るペルシア人の宗教』はエミール・バンヴェニストによる1926年の講義で以下の四章からなっている。

第一章 資料全般ーゾロアスターの神話的年代

ギリシャ人はペルシア人の文化に関心を寄せていて文献にも多く残っているという事情がある。また著者はアヴェスターの事に言及している。

〜さて、イラン人の信仰についてはアヴェスターを通して知ることができる。しかし、過去50年間の批判的研究により、これは異なった時代の諸文献が種々雑多に結集されたものであることが明らかにされてきた。つまり、アヴェスターはゾロアスター自身が説いたとされる古代の詩頌篇である『ガーサー』と、古き神々を讃える賛歌である『ヤシュト』、そして宗教上の戒律と倫理上の戒律を集大成し、その主たる目的は浄化にあるとされる「除魔の書」たる『ウィーデーウー・ダード』から実際には編まれているのである。〜

第二章ヘロドトス

ここではヘロドトスの『歴史』を引用してペルシア人の風習や宗教について述べている。

ヘロドトス『歴史』より

131 私の知る限り、ペルシア人の風習は次のようなものである。ペルシア人は偶像をはじめ神殿や祭壇を建てるという風習を持たず、むしろそういうことをする者を愚かだとする。(後略)

132 ペルシア人が先に挙げた神々に捧げる供犠の仕方は次のようである。ペルシア人は供儀を行うに当たって、祭壇も設けず、火も焚かない。また酒を注ぐ儀式もなく、笛も吹かず、花環もつけず、ひきわりの大麦も用いない。(後略)

140 (前略)しかし次に述べる死人の処理については、秘密事項として伝えられていることで、はっきりしたことはわからない。つまり、ペルシア人の死骸は葬る前に鳥や犬に食いちぎらせるということである。(後略)

これはアヴェスターを知っている者なら不思議に思うだろう。著者はこう述べている。

〜したがってヘロドトスが述べているのは、ゾロアスター教の体系とは全く異質な何かなのである。〜

そしてこのように結論づけている。

〜したがってヘロドトスが記しているペルシア人の宗教はアヴェスターの宗教と共通するところはあるが、しかしそれは、アヴェスターの宗教の最古層の特徴、すなわち、古代のインド=イラン語族の時代から生き残ってきた特徴だけに限られるのである。〜

第三章 ストラボン

時代が下ってストラボンもヘロドトスと似たような事を述べている。以下著者のコメント、

〜ここでは、アルメニアやその近隣諸国のように、早くからイランの影響を受け、特にアルケサス朝の時代には北部ペルシアの刻印が鮮明に捺され、その刻印がその文明のあらゆる様相に滲み出ているような国を扱ってみたい。周知のように、アルメニア語の中には、イランから多くの語が借用され、こうして封建制度、技術、政治、宗教に関わる語彙の大半が作られている。そのうえアルメニアではイランの宗教が支配的であった。〜

〜ストラボンは他の事柄も指摘しているが、それらはヘロドトスのそれを繰り返しているか、それとも近親婚のような社会的風習の研究に関わったものか、そのどちらかである。〜

第四章 テオポンポスとプルタルコス

ここではプルタルコスの『イシスとオシリスについて』を引用して色々と述べているが長いので省略する。

第二部は1985年に行われたゲラルド・ニョリによる『ゾロアスターからマニへ』という講義である。これも省略する。