ガルシア・マルケス 「東欧」を行く (1957)

コロンビア出身のジャーナリスト兼作家のガルシア・マルケスが仲間と東欧世界に入り込み数編のルポルタージュをものにする。東欧世界とは東ドイツチェコスロバキアポーランドソ連ハンガリーである。東ドイツではブルジョアは補償金と引き換えに財産を没収され、金利で生活しつつ外人向けの国営ホテル、バー、レストランで政府にお金をむしり取られていた。たいていは暗い顔をしており、生きてるうちにお金を使い切る必要があるようだ。一方、一般人は安い賃金で働かされ、食料品に困ることはないが日用品には不自由を強いられている。言論の自由はなくストライキもすることはできないという。今は東西ベルリンに壁はないがそのうち作られることになる。チェコスロバキアは工業が発展し人々には幾分自由な雰囲気がある。ただナイロン製品のような贅沢品は入手が難しい様だ。ポーランド人は古い町並みを復元しようと執念を燃やしている。本家本元のソ連は航空産業で米国に迫るものの民生用の工業製品では立ち遅れている。スターリンが死去しフルシチョフ体制になったばかりである。新しい体制はカフカの小説の世界そのものだという。

このように東欧世界の闇をつぶさに観察し時に「かわいそうな人たちね」と呟く彼らだが、実は彼らの祖国の闇の方が大きいというのは皮肉である。コロンビアでは大統領が暗殺され内戦が始まり政治弾圧が猛威を振るいはじめていた。60年経った今の状況は東欧はEUとなり秩序が保たれているがコロンビアはコカの栽培とその密売人が跋扈する暗黒世界である。