本書は十二支に出てくる動物についての伝説や民俗について古今東西の文献から著者である南方熊楠が縦横無尽に語り尽くそうという作品である。
東洋文庫の巻(2)は馬についての伝説から始まる。この話はインドの説話だがパーリ語の本生譚の漢訳である本生経の中の『根本説一切有部毘奈耶雜事』からの引用であるという。
要旨
産み落とされた智馬が馬商から瓦職人の手に渡り最後は王の所有となる。この時瓦職人には一億金が支払われる。馬は王の元で豪奢な馬生活を送らせてもらい、敵が攻めてくると水の上を歩いて見せてそれを見た敵は驚いて退却する。どうしてこうなるかというと、この馬は喋るのである。馬商はこの話を聞いて大金を逃した事を悔やみ気絶する。
今のが梵授王の話だが、この後もナポレオン三世、南北戦争でのウィスコンシン連隊、宋の姚興の青獅子、北漢の主劉旻、唐の将軍哥舒翰、宋の徽宗皇帝、源義経、アレクサンドル大王、ローマ皇帝カリギュラと止めどなく逸話が出てくるのである。
話は飛躍して七宝の一つ女宝について述べている。
膚艶に辞潔く、妙相奇挺黒白短なく、肥痩所を得、才色双絶で志性金剛石ほど堅い上に、何でも夫の意の向かうままになり、多く男子を産み、種姓劣らず、好んで善人を愛し、夫が余の女と娯しむ時も妬まぬ、この五つの徳あり。また多言せず、邪見せず、夫の不在に心を動かさぬ、三つの大勝あり、さて夫が死ねば同時に死んでしまうそうだから後家にして他人へかかる美婦を取らるる心配も入らぬ重宝千万の女だ。
ちょっとこれはという感じだが、次に他の五宝は省略して馬宝について述べ始めると出てくるは出てくるは、仏典、漢籍或いは西洋の文献までとめどが無い。
この様なことも言っている。
皆人が知る通り、誰かが『徒然草』の好い註解本を塙検校方へ持ち行き、この文は何による、この句は何より出づと、事細かに調べある様子を聞かすと 、検校『徒然草』の作者自身はそれほど博く識って書いたでなかろうと笑った由。(略)
この後の羊、猴については省略する。