パトリック・キングズレー著 シリア難民 (2016)

本書は英国「ガーディアン」紙の移民専門ジャーナリストである著者の書き下ろし作品で日本版で300ページほどになる。本書の骨格となるのはダマスカス在住のシリア人ハーシム・スーキへの密着取材である。

ハーシムは37歳の公務員で三人の子供と妻がいる。ある日当局によって拘束されたハーシムは半年もの間監禁される。解放された時には内戦が始まっていた。ハーシムはシリア脱出を決心する。

まずハーシムは家族を連れて陸路ヨルダンに入国する。アカバからフェリーでエジプトのヌエバ港に難なく着いた(2013年6月28日)。一家はタクシーで友人がいるというカイロ東部の町「ラマダン月10日市」に向かう。そこでハーシムは食品会社や木炭工場で働きながらチャンスを待っていた。

アブ・ハマダという密航業者の斡旋でアレキサンドリア近くの海岸からヨーロッパに渡るという時に一家はエジプト警察に逮捕されてしまう。だがハーシムは諦めない。今度は家族をエジプトに残し単身地中海を渡りイタリアにたどり着くのである(2015年4月22日)。

イタリアからは著者とともに列車でスウェーデンを目指す。何故ならスウェーデンはすべてのシリア人に永住権を与えると約束しているからである。ハーシムはヒヤヒヤしながらフランス、ドイツ、デンマークを通過する。何故なら途中で当局に捕まるとその国で難民申請することになりとても面倒なことになるからである。だがついにハーシムはスウェーデンに到着する。2015年4月28日のことであった。

イタリアまではハーシムの手記によるもので、スウェーデンまでは著者が同行したものの一切助けはしなかったという。本書のボリュームがあるのは豊富な別取材による記述と自分の意見を交えて構成しているからである。

〜以下引用

85万人の難民と聞くと大変な数に思えるかもしれない。たしかに歴史的に見ればそうだろう。だがそれは、約5億人のEU人口の0.2%程度に過ぎない。もし適切に対処すれば、世界一豊かな大陸が現実に吸収できる数だ。

〜引用終わり

楽観視しすぎである。十字軍の行軍の逆が今起こっているのである。彼らはものすごい勢いで人口を増やすだろうし、ボスニア・ヘルツェゴビナというムスリムの拠点もある。それにサウジアラビアの資金が加わり内戦がかつて行われた。きっとまた何か起こるはずである。