東洋文庫 中国の酒書 (1114年頃)

「北山酒経」は北宋時代の酒造法を詳述した書である。著者の朱肱は湖州(今の浙江省)の生まれで進士になった後政府高官を勤めたが早く引退し杭州に居を構え著作に励んだ。

巻上にあるエッセイ風の文を紹介する。(一部表記を変更した。)

酒の、世におけるは大である。天地を礼し、鬼神を事り、射郷の飲、鹿鳴の歌では、賓主百拝し、左右秩秩たり。上は郷紳から、下は閭里におよぶまで、詩人墨客も、樵夫漁父も、みなこれを欠くわけにはいかない。閑地に投じてみずからを放ち、襟を攘げ腹を露け、くつろぎ酔って江湖のほとりに臥し、肘枕して酔を解き、忽然として醒めるのである。(略)

巻中には麹の製法が記されている。一部を紹介する。

小酒麹

もち米一斗を粉とし、蓼の汁をむらなくまぜる。つぎに、肉桂・甘草・杏仁・川烏頭・川芎・生しょうがの、杏仁と同じに研った汁を入れる。それから、均等に分けて餅状にまるめ、蓬草で覆う。風が入ってはいけない。熱をおびてからの次第は、玉友麹の手順と同じで、麹室から出して風とおしの良いところに掛ける。造酒一斗につき、四両を用いる。

巻下には各種醸造法が記されている。一例を挙げる。

地黄酒

地黄は、よく肥えて大きなものを選ぶ。米一斗につき生地黄一斤を、竹刀であら切りしてから、木あるいは石の臼でかき砕く。これを米にまぜあわせ、甑に上して蒸熟し、あとは常法によって醸す。黄精でつくる場合も、この方法による。

併録されている「酒譜」は省略。