東洋文庫 戦国策 1 (前1世紀)

戦国策は前漢の劉向(りゅうきょう)が編纂、命名したもので、本書はその現代語訳である。 秦による焚書坑儒の後にこうした書が出てくるというのは興味深い。

冒頭の〔はこべない献上品〕は「九鼎」、「鼎の軽重を問う」に関連した故事となっていてやや面白さがあるが、読んで行くとなかなかピンとくるものが少ない。その中でも面白かったものを少し紹介する。文章を一部改変した。

〔離間策〕 秦が、楚の漢中を取り、さらに藍田で戦って、大いに楚軍を破った。すると韓・魏が楚の窮状を聞き、南下して楚の鄧まで攻め込んだので、楚王は藍田から引き揚げた。

その後三国(斉・韓・魏)が、楚を攻めようとたくらんだが、秦が救いに出はすまいか、と懸念した。折からあるものが、薛公(斉の相)に説いていうには、

「使者をやって楚に、『三国の軍は、ただいま楚から立ち退くところですが、楚が呼応して、ともどもに秦をお攻めになれば、秦の藍田といえども、らくらく 手に入ろうというもの。まして、もとのご領地なぞは』とおいわせになることです。楚は、秦が救ってくれるとはかぎらない、と危惧しております。そこへ、三国からこう申し入れれば、楚がとびついてまいるのは必定。ということは、楚が三国と、秦に出兵しようとくわだてた、ということであります。秦がこれを知れば、救いに出るはずはありません。そこで三国が不意に楚を攻めます。楚はきっと秦に走って急を訴えましょうが、そうなれば秦はいよいよ出ようとはしますまい。つまり、こちらは、秦を離間して楚を攻めるわけ。かならず成果を挙げましょう」

薛公は、 「なるほど」 といい、かくて、特使を楚に出した。楚ははたしてとびついてきた。よって、三国協力して楚を攻めると、楚は案の定急を秦に告げたが、秦はとうとう出兵しようとせず、大勝して成果を収めたのだった。