失われた時を求めて (20)

プルーストが憧れて、いつも想像をたくましくしていたゲルマント公爵夫人に会えたのはドクター・ペルスピエのお嬢さんの結婚式の時だった。教会でのミサに出席したプルーストはゲルマント公爵夫人の姿をとうとう見たのであった。現実の姿を目の当たりにして少しがっかりしたプルーストだが、またもや想像をたくましくすると、偶像として再び憧れるのだった。以下引用文。(吉川一義訳)

《そして故意に不完全なものにした素描を前に、私は心の中でこう叫んだ、「なんて美しい人だ!なんて高貴なんだ!ぼくの目の前にいるのはまさしく誇り高いゲルマント家のひとり、ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバンの末裔なんだ!」》

《je m’écriais devant ce croquis volontairement incomplet: «Qu’elle est belle! Quelle noblesse! Comme c’est bien une fière Guermantes, la descendante de Geneviève de Brabant, que j’ai devant moi!»》

ドクター・ペルスピエの馬車に乗せてもらった時の、変化する風景に驚いたプルーストは雷に撃たれたようにその印象を紙に書き留めている。それは三本の鐘塔がクルクルと姿と色を変えて立ち現れる情景であり、完璧な風景描写であった。このあとプルーストは幸せな気分になり、大声で歌い出している。