失われた時を求めて (28)

この巻ではプルーストの人生にとって大変重要なイベントの記述がある。あのブロックがプルーストを娼家に初めて連れて行ったのである。だが大勢の美女がいると信じて訪れた先には、美女どころかぱっとしない願い下げしたくなるような女達が待っていたのだった。

ここからの筆致は極端に鈍り、プルーストが女を買ったかどうか定かではなく、楽しい思いが出来たかどうかもわからない。女主人がやたらに勧めてくるユダヤ女の事や、プルーストが寄贈した古い家具の事を書いてお茶を濁している。

話は戻ってジルベルトとの蜜月時代がまさに終わろうとしているのであった。きっかけはジルベルトがダンスのレッスンに行こうとして、オデットにたしなめられる出来事がプルーストの目の前で起こった時のことである。その日は二人の間に気まずい時間が流れ、未熟なプルーストにはこの事態を打開する事はできなかった。ジルベルトの気の強いのは元よりそうだしプルーストも異様にプライドが高いのだ。とうとう言い合いになってしまった。これで二人の関係は終わりである。プルーストが考えれば考えるほど復縁から遠ざかるという不思議な考察が長々と加えられる。そしてついに本音を書いている。以下引用文。(吉川一義訳)

《いまや日ごとに延期しているのは、もはや別離が引き起こす耐えがたく強烈な不安の終わりではなく、解決策のない動揺の怖ろしい再発なのである。会ってそのような事態になるより、御しやすい想い出の中に暮らすほうがどれほどいいだろう!想い出なら好きなように夢想を補え、現実では愛してくれない女にも逆に愛を告白させることもできる、こちらがひとりでいるときに!(略)会ってしまえば、相手にはもはや自分の望みどおりの好きなことを言わせるわけにはいかず、新たな冷たい仕打ちを受け、想いも寄らぬ暴言を浴びせられることになるのだ!》

一方オデットとの交流はしばらく続いていて、オデットについての非常に詳細な描写が行われている。この分析を読むとオデットの豪華なビジュアルが浮かび上がってくる。ジルベルトのビジュアルについてはろくな言及もされていない事から、プルーストが魅せられていたのは本当はどっちだったかがわかるのである。(第3巻終)