失われた時を求めて (74)

カンブルメール夫妻が到着する。カンブルメール氏の容貌についてプルーストはこう描写している。以下引用文。(吉川一義訳)

《(略)その風貌に驚いた。たしかに慣れれば気にならない。しかしその鼻は、これほどの不細工はないという唯一の輪郭をわざわざ選んで口の上方に歪んで配置されたとしか思えず、顔の上にそんなものがあるとはだれも考えないその輪郭は、いかにも品のない愚鈍をあらわしているように見え、鼻のまわりの顔色がノルマンディー人らしくリンゴのように真っ赤なのがその愚鈍感をいっそう募らせている。》

作者が人の容貌についてこの様な表現をするというのは、リアリズムというより悪意があるのだと考えられる。

とりとめなく会話は続くが、これらは食事をしながらの会話なのである。その事が分かる部分を示す。以下引用文。

《解放された歓びのあまり一段と感じやすくなったサニエットは、こんなに格式ばった晩餐会なのにヴェルデュラン氏が、サニエットさんは水しかお飲みにならないからおそばに水差しを置くように、と給仕頭に言いつけるのを耳にして感激していた(いちばん多くの兵士を戦死させる将軍は、兵士たちにしっかり食べさせるのが常である。)》

プルーストの文章は時間の流れがわかりにくいのが特徴である。