モレルがバイオリンの腕を披露する。曲はフォーレの「バイオリンとピアノのためのソナタ第1番作品13」という実在のものである。その後にこのようなやりとりがあった。以下引用文。(吉川一義訳)
《その曲が終わると、私はフランクを聴かせてほしいと所望したが、カンブルメール夫人にはそれが我慢できないようだったので私は固執しなかった。「そんなの、あなたの気にいるはずがありませんわ」と夫人は私に言った。そのかわりに夫人が頼んだのはドビュッシーの「祭」で、最初の音が弾かれたとたん、夫人は「ああ!これは最高!」と大声をあげた。》
コタールとモレルがトランプを始めると、シャルリュス氏が気の利いたジョークを挟む。
《「このトランプというやつは、現代では大した意味もなくなった礼儀作法の問題と同じほどに興味ぶかいものですな。われわれに残された王さまといえば、少なくともフランスじゃトランプの王さまぐらいなものですが、その王さまが若きヴィルトゥオーソの手にどんどん集まる気配ですな」とやがて氏はつけ加えた。》
もう一つ今度はコタールがジョークを発する。
《「あなたにはおわかりにならんでしょう、なぜダイヤのキングが兵役免除になったのか」とコタールがなおも同じことを訊ねたのは、いつもの冗談を言いたかったのだ、「それはね、片目しかないからですよ。」》