失われた時を求めて (79)

今回のバルベック滞在ではアルベルチーヌと自動車で散策し、訪ねてきた友人と会ったりしている。ホテルの従業員とも接するが、厳しい目で観察している。建前かもしれないがプルーストの人との接し方の原則が述べられている。以下引用文。(吉川一義訳)

《私は一度たりとも労働者とブルジョワと大貴族とを分け隔てしたことはなく、友人を選ぶにもどの階級の人間かなどと区別はしなかったはずである。どちらかといえば好きなのは労働者で、そのつぎが大貴族であるが、それは好みの問題ではなく、ブルジョワよりも大貴族のほうが労働者に礼儀を尽くすことを知っているからで、それは大貴族がブルジョワのように労働者を軽蔑しないからか、あるいはだれにでも進んで礼儀正しく振る舞うからであろう。》

プルーストの実像を探っていくと分るのだが、こんな意味深長な記述がある。

《ある自動車の運転手が私とダイニングルームで夕食をとっているのを見たときも、母はあまり喜ばず、「お友だちとしては運転士よりもましな人がいるでしょうに」と言ったが、その口調は、縁談がもちあがって「お相手としてはもっと立派な人がいるでしょうに」と言うときとそっくりだった。》

この運転手こそが同性愛者プルーストのお相手であり、アルベルチーヌなのである。