失われた時を求めて (84)

本書の世間での反響が伺える記述がある。シャルリュス氏とヴォーグーヴェール氏の羽目を外したような散歩の光景を書いた後にこう述べている。以下引用文。(吉川一義訳)

《ジュピアンの店へ話をもどす前に、作者としては、かくも奇妙な描写に読者が不快を覚えられたとすればなんとも心の痛むことだと申しあげておきたい。一方には(これはことがらの些細な面であるが)、本書ではほかの社会階層に比べて貴族階級の頽廃がことさら糾弾されているようだと言う人たちがいる。たとえそのとおりだとしても、なんら驚くにあたらない。よほどの旧家ともなると長い歳月のうちに、いびつな赤い鼻や歪んだ顎などに、だれもがやはり「血筋」だと感心して眺める特殊な徴候をあらわにするものだ。しかしこのように根強く残ってたえず悪化する特徴のなかで、目に見えないものがあって、それが気質や嗜好なのだ。》

ストーリーの合間に口上が入るという小説らしからぬ斬新さがあり、毒舌と申し開きを混ぜて投げてくるというのがプルースト流である。