第11巻に入る。スワンの死から始まってアルベルチーヌの失踪で終わる長い巻である。冒頭からプルーストの毒舌が冴え渡る。少しメモしておこう。ソルボンヌの教授ブリショの眼鏡についての皮肉である。以下引用文。(吉川一義訳)
《(略)装着していた新式のメガネは、まるで天体望遠鏡のような強力かつ複雑な装置を目にネジでとりつけているかに見えた。ブリショはそのメガネの過剰な光を私の上に注いで、私のすがたを認めた。メガネの調子は上々であったが、その奥に見えたのは、ごく小さな、青白い、痙攣して消え入りそうなぼんやりしたまなざしで、それがこの強力な装置の下に置かれているのは、やっている仕事からすると潤沢すぎる補助金を受けた研究室において、最先端の器具の下に取るに足りぬ瀕死の虫けらを置いた感がある。》
今二人はヴェルデュラン家の音楽会に向かう途中である。ちょうどその頃スワンが死んでおり、プルーストは想いをめぐらしていた。一通りの真っ当な考えを述べた後、結論めいた言辞を発する。
《とはいえ、親愛なるシャルル・スワンよ、私はまだ若造で、あなたは鬼籍にはいる直前だったから、親しくつき合うことはできなかったが、あなたが愚かな若造と思っておられたにちがいない人間があなたを小説の一編の主人公にしたからこそ、あなたのことがふたたび話題となり、あなたも生きながらえる可能性があるのだ。》
傲慢な感じもするが、「スワンの恋」という映画もあるらしい。理由はわからないが「失われた時を求めて」の映画化はなされないようである。